いつかの空
サンカルナ湖には湖の主である大蛇が棲んでいる。硬い鱗と大きな牙を持つ大蛇は、今が産卵期である。その大蛇の調査を内密にと隊長から仰せ付けられたのは、まだ陽の昇ったばかりの今朝のことだ。大蛇の卵から採れる真珠は目玉が飛び出るほどの高価なものだった。
高い値で取り引きされている。役人の調査員達も動き出していた。
隊長の奥方が産気付いた。そんな隊長からの内々の調査依頼である。隊長は奥方に大蛇の真珠を贈るつもりなのだ。そしてブルーノは生物学に詳しく、その知識を買われてのことだった。
しかし大蛇の調査は専門家達だけにしか許されていない。いくら兵士であろうとも、勝手に調査をして卵を採取するのは罪になる。
もし役人達にでも知れたら、兵士の身分を剥奪されるだろう。
そんな重大任務を仰せ付けられたことを誇りとするか、呪い散らすか。
しかしブルーノは難色を示すことはなく二つ返事で快く受けた。この任務を遂行すれば身分が昇格出来るかもしれないとか、そんな打算的な計算は頭になかった。
ただ純粋に大蛇の調査を行えることが嬉しかったのだ。
今日はいつにも増して上機嫌であることを自覚していた。だからだ。グレンに言う必要もないことを打ち明けてしまったのは。
グレンは知識を仄めかしてふんぞり返っている親友を恨めしそうに見上げて来る。そんな風に見えているのかと、やや落胆を隠せなかった。しかし、それもさほど気にならないほど、ブルーノは気分が高揚していた。収穫はあった。大蛇の調査は難しく、いくら知識に長けていても、下手をすれば命を落とすことだってある。
朝方早くに出かけて午(ひる)までかかったが、それでも誰にも見咎められることもなく、大蛇の卵を採取することに成功した。
この喜びと気持ちの高揚感を唯一無二の親友であるグレンに打ち明けたい衝動を、どうにか堪える。今ここで親友をかき抱いて口づけでも贈りたい気持ちだ。