いつかの空
「そろそろ俺は行くぞ。ぐずぐずしていたら日が暮れる」
いつまでも煮え切らない笑みを浮かべたまま喋ろうとしない親友に呆れたのか、グレンが苛立ったように切り出した。
「ああ、悪い。それで質問の答えは?」
「それは俺の台詞だ。ブルー。お前じゃあるまいし、俺に分かるわけが無いだろう」
「そうか。やはりな。サンカルナ湖の水蛇だよ」
「──ああ!」
ようやく納得が行ってグレンはダークブラウンの瞳を輝かせた。
「そうか。確か今は産卵期だよな。まさかお前……卵を採りたいとか考えているんじゃないだろうな」
「ハハ。まさか。まあでも、いつか調査員の仕事を任されるようになりたいかな」
「お前らしいよ。でも、前線希望じゃないのか。隊長になるのが夢じゃないのか?」
「そうだな。隊長はグレンに譲るよ」
「なんだよそれ! お前首席じゃないか。せっかく良い腕を持っているのに。それに俺達はライバルだろ。隊長の座をかけて闘おうぜ」
「……それも良いかもな」
ブルーノは柔らかな笑みを浮かべた。今度こそグレンは厩舎に向けて踵を返した。
その背中にブルーノは声をかける。その時ちょうど、小さな秋風が二人の間を吹き抜けた。二人の髪の毛を掬い上げ、額と頬を撫でて去る。
「グレン。用事が済んだら、久々にどうだ?」
カチャリと金具の擦れる音が響く。振り返るとブルーノは腰の剣柄に手を添えていた。軽く首を傾げて問うように顎をしゃくる。グレンは嬉々と頬を輝かせた。大きく頷いた。
「良いよ。今度は負けないからな」
「それは楽しみだ」
言ってろよ。と舌を出してから「じゃあな」と手を軽くあげて再び背中を向けた。柔らかな秋風が吹く。少し冷たい風だった。
ブルーノは青い秋空に視線を向けた。少し湿った空気は今夜辺りに雨を運んで来る気配を乗せている。
穏やかな風と雨の気配に身を任せてグレンを見送ってから、ブルーノも隊長に任務の結果を報告すべく兵舎に向けて歩き出した。