でぃーなーしょう



「ただいまー」


寺島と別れた後、名前はそのまま帰宅した。
自宅のドアを開ければ香ばしい匂いが鼻をつく。
今日のご飯は鶏肉の照り焼きかなと予想しながらリビングに入れば、フライパンとフライ返しを両手に母が料理に勤しんでいた。


「名前、おかえりなさい。ご飯出来てるわよ」

「ありがとうお母さん」


手を洗って席に付けば、予想通り鶏肉の照り焼きが綺麗な黄金色になって皿に盛り付けられていた。
照り焼きの他にご飯に味噌汁、わかめとキュウリの酢和えなどが並べられており、どうやら今日は全体的に和風テイストらしい。

いただきますと二人で手を揃え夕食を食べる。
父は仕事の都合上家には滅多な事がないと帰ってこない。
仕事の詳しい内容は母も名前も聞かされておらず、とりあえず何かしら忙しそうにドタバタとしている印象しか抱かない。
月々口座にとんでもない数字の金額が入ってくる事から、きちんと仕事はしているらしいが如何せんとんでもない数字なため、あまり顔を合わせた事がなく、なんなら顔すらも覚えていない父の事を少なからず心配する。
母はいたってのほほんと、お父さんの仕事はきっと石油王なのよと言っているし始末だ。名前はそれを聞いてさすが母だと思った。母は何かとメルヘン思考なのだ。


「今日のボーダーはどうだったの?楽しかった?」


もぐもぐと我が母ながら可愛らしい動作で食事を進めている母を見て、今日起きた出来事を思い浮かべる。


「楽しかったよ。入隊日があって、訓練も少しだけして……その帰りにエンジニアの人と知り合ったの!」

「あら良かったじゃない!名前機械系好きだものね!ちなみにポジションはどこにしたの?」

「攻撃手だよ。エンジニアの人とも仲良くなって、自分のトリガーなら好きに弄って良いよって言われたんだ!」

「まぁ、良い事尽くめね!」


まるで自分の事のように喜んでくれる母を見て、名前の心は暖かくなった。
前の世界ではこんな事など絶対に言われない。なんて幸せなのだろう。と。

前の世界の両親が嫌いな訳ではない。
それこそ名前を強くしようと人一倍努力してくれたし、協力してくれた。
けれど二人は『名前を強くする。』これだけにこだわり過ぎたのだ。

そこに愛はあれど、それを表に出す時など一欠片もなく。
名前は愛されていないとは思わなかったが、けれど物足りないと常日頃考えているようになってしまったのだ。


だから今のこの生活は素晴らしい事この上ない。
人や環境に恵まれ、いつ死ぬかも分からない、なんて事なんてない。


あぁ素晴らしいなぁ。


母との夕食を楽しみながら、名前は明日の訓練の事に思いを馳せつつ、今置かれている環境に感謝した。



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