踏みつぶした夜明け



やらかした。

依頼を頼まれた時から信用できるような客じゃない事は分かっていた。
けれど名前は父の教えを破ってまで情報を与えた。


情報屋は危うい。


そんな事は分かっていた。
分かっていたはずだし父からもしつこいくらい教え込まれていた。
けれど人というのは同じ生活をしていると何故だかな、刺激が欲しくなる。
だから名前は普段ならば絶対に取らない客を取り、情報を渡してしまった。


その結果がこれだ。


客は名前から情報を受け取ると数日後、また情報を欲し、与えれば帰っていくという事を何度か繰り返した後、日も沈み月が顔を出した今、家に押し入ってきた。


情報屋は毒にも薬にもなり得る。
今回は自分達には大きく薬だったが、いつ毒に変わるか分からない。だから命が惜しくば自分達の所へ来て自分達のために情報を寄越せ。との事だった。


もちろん名前は断った。情報屋は諸刃の剣だ。無敵では無い。
だから名前はそれに対しての対策はきっちりとしてきた。
それでこその情報屋だ。それなのに対策もしていないプライベートな時に家に押し入ってくるとは、プライバシーの欠片も無い。

しかしそれらは元を辿れば全ては名前の責任。
今目の前で下卑た笑みを浮かべ、銃を向けてくる客のこいつらを受け入れたのも名前。
刺激が欲しくて暴走したのも名前。




パソコンの光のみの自室から、月の光が差し込んだ。




「本当に俺達の所に来ないのか……?お前の命は無いんだぜ?」

「……えぇ、情報屋は誰の味方にも敵にもなりません。ですから貴方達のために情報を提供するような人間には私はならないしなれないのです」

「……そうかよ、念能力持ちの情報屋なんてレアだったのによぉ……」


仕方ねぇなと舌打ちをしながら、男は名前の額に押し付けていた銃を構え直し、一切の躊躇もなく引き金を引いた。


「じゃあな、嬢ちゃん」


飛び散る鮮血。乾いた銃声。


景色がぐらりと反転し倒れる頃には、名前の意識は消えていた。








温かい温もりから抜け出し、鋭い光が瞳の中を差し込む。
声を出そうと思えばそれは普段の自分の声では無く、赤ん坊の産声となって喉を揺らした。
自分は誰だと意識が覚醒すれば、真っ白い部屋に人間が何人か。


「おめでとうございます。元気な赤ちゃんですよ」


名前を抱えていた人がそう言うと、ベッドに横たわる女性は名前を見て幸福そうにぐったりとしつつも微笑んだ。





それが名前の、二回目の人生の始まりだった。



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