序章

2


「名前ー!今日バレンタイン!チョコ!」

「はいはい、ロンには蛙チョコです!あ、あとハリーにも渡しておいて貰えますか?」

「うん、大丈夫だよ!ありがとうね!」



じゃあね!とロンの声を聞き、温室の植物達の元へと行こうとしたはず。

なのに、何故なのだろう。





「ここ、どこですか……?」





















確か私は、ロンにチョコをあげたはず……。



なのに……。



「ここ、どこですか……。」



生垣に囲まれた芝生の上、名前はゆっくりと起き上がる。



何故なんでしょう……、先程までロンにチョコをあげていたのに……。




ロンにチョコをあげた後、名前は少し眠くなり、一眠りなら良いかと机に突っ伏したのだ。



もしかしてそれが原因……!?でも寝ただけで知らない所にいるだなんてそんな……。



混乱しかけている脳を無理矢理奮い起こさせ、名前は今ここがどこなのかを探るのに集中した。



背の高い─名前をすっぽり覆い隠してしまうくらいの高さの─生垣に芝生。

そして名前の斜め後ろには、すっかり錆びれてしまいボロボロのドームパーゴラ。
細かい装飾がなされたそれは、昔はとても綺麗なものだったであろう。




人気がなく完全に寂れてしまった場所。というのが名前の印象だ。
生垣や芝生は手入れを全くされておらず、花壇の花達は枯れ切ってしまっている。

よく分からない所に来てしまったついでだ、このパーゴラだけでも直してあげよう。
そう思い名前はローブから杖を取り出し……。



「……杖がない。」



というか服装が違う。私こんな服着た覚えも持っている覚えもありません……。



青と白のストライプ柄のネクタイに、深緑のような色のブレザー。
プリーツスカートではなく、巻きスカートのような特徴的なスカート。
これはいわゆる制服であるという事はなんとなく察せられた。



着た覚えのない服に、来た覚えのない場所。
これは別世界に飛んだと考えても良いのか。
名前の頭の中はぐちゃぐちゃだった。

いきなり混乱を起こしてパニック状態にならないのは、名前が魔女であり特殊能力者であるから故、摩訶不思議な出来事には慣れっこであるからだ。

今だって何かの魔法の手違いか、何かの手違いで設定したポートキーに触れてしまったか、そう考えている。



きっと何かしらの原因が必ずあるはずです……けれど杖がないのは……いささか不便ですね……。
まぁ飛んできてしまったのは仕方がないでしょう!



名前は自分のミスでどこか別の所へ飛んで行ってしまったのだと自己完結し、とりあえずここはどこだか探索をしてみる。


慣れない服を着て歩くのは少々もたつく。
普段ブーツを履いてばかりいる名前にとって、ローファーは少し歩きにくいものだった。

それに普段魔法界ではタイツにショートパンツばかりだったので、スカート特有の下半身に空気が触れる感覚が、正直少し気持ち悪い。



もうちょっとスカート丈、長くなりませんかね……。



ぎゅうぎゅうとスカートを下に引っ張り、心做しか長くなったような気持ちに浸る。
迷路のように入り組んだ生垣を抜けると、目の前には大きな校舎が目に飛び込んできた。



何ですかこれ……私は一体どこに行ってしまったのですか……!?



見た事の無い建物に、さすがの名前も驚きを隠せない。
手汗が滲む手のひらをすり合わせ、冷静になれと自身に言い聞かせる。
ひとまず状況を整理するため、頭の中を空にしなければ。



まず、私はどこか知らない場所にいます……。それから、服も違いますし、杖がありません……。
可能性としてはポートキーに手違いで触れてしまったか、何か別の事が起こって他世界に飛んできてしまったか……。



今考えられるだけで、ざっとこれくらい。
しかし全く知らない土地に飛ばされるのはやはり居心地が悪く寂しい。
杖もなければ、衣食住が保証されない。



あ、姿あらわしとかは……!



杖がないのならばとひらめいた名前は、自分ナイスと鼓舞し、早速試してみた。
しかしいつまで経っても姿あらわしができず、名前はこの場所では魔法が使えないと判断した。



魔法も使えない、姿あらわしもできないとなると……かなり不便ですね……。



けれどいつまでも落ち込んでいる場合ではない。今はこの場所がどこで、何故自分はここへ来たのか知らなければならない。
名前は頬をパチン!と両手で叩くと、まずはこの生垣から出なければと思った。




気が遠くなるほど背が高く、分厚い生垣。一体ここはどこなのか。
とりあえずはこのパーゴラのような場所から出なくてはならない。

名前はそう考えつつ、早速歩きだそうとした。



すると。



「名字さん!ここにいたのね……!? 」

「……?えと……?」



髪の毛を一つに結わえた女性が、急ぎ足で名前の元へと走ってきた。
いきなりの事で名前は放心し固まってしまうが、女性の方はそんな名前を気にせず、手首を掴み走り出した。



「早くしないと間に合わないわよ!さぁ早く!」

「え、あのっ!何に間に合わないんですか!?」

「何を言ってるの!?頭でも打ったの!?うちに入学するんでしょう!」



早くしないと遅刻になっちゃうわよー!と早口にまくし立てながら、女性は名前を引っ張りどこかへと走る。



これは……ついて行っても良いのでしょうか……?



名前はどこへ行くのかも分からず、女性の後をついて行くしかなかった。


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