コスプレで迫ってみた


「こんばんみー! さく愛称チャンネルの愛称だよ〜! 今日はさっくんに、ドッキリを仕掛けたいと思います……! ちなみにさっくん、今はアニメ見てます。あと3時間くらいはぶっ通しで見るんじゃないかな?」

別室からこっそり撮影を始める。今日のドッキリは題して『アニオタの彼氏に推しのコスプレで迫ってみた』。さっくんの好きなウマ娘のメジロマックイーンちゃんのコスプレをするよ。こういうのはガチでやりたいからちゃんとウィッグもカラコンも買ったしメイクもこっそり研究してたんだ。
撮影を止めて、お着替えタイム。自己評価としては、けっこういい感じなのでは? と思うんだけど、さっくん喜んでくれるかなぁ。コスプレ自体は何度か経験あるけど、こういうキャラもののコスプレを見せるのは初めてかもしんない。

「じゃあ、準備もできたしさっくんのところに突撃してみましょう……!」

撮影用のスマホ片手にリビングへと侵入する。さっくんはそんな私を気にすることなくアニメを見続けていた。ED入ってるし、もうすぐ終わりそう。そっとそーっと気づかれないように近づいてみる。

「あー、今週も面白かった! ……あれ、愛称りんー? え、うぇ!? えぇっ!!? ま、マックイーン!?!?」
「奇蹟は起きます。それを望み奮起する者の元に、必ず、きっと……!」
「えっ、えっ!? 待って、え、クオリティやば!」

実はこの日のために練習してたんだよね。似てるかどうかはまあその……アニオタの友達からはお墨付きもらったからいけると思ったんだけど……そこまでキラキラした目で見られると、ちょっと恥ずかしい。

「えっ、え、あ、やばい、超やばいさいっこう!」

ニヤニヤしながらくるくると私の周りを回って360度余すところなく私を見てさっくんは満足そうにため息をついた。

「俺の嫁最強すぎぃ……!!」
「ねぇ、さっくん」
「は、はい! はい!! なんでしょう!!」
「……こういうの、どう?」

とん、とさっくんをソファに押し倒してその上に乗る。うるさいくらいの心音を抑えて尋ねればさっくんは目を爛々と輝かせて「さいっこう!!!」と笑った。

「ちゃあんと、マックイーンしてくれてるんだぁ。髪も、カラコンも、服も……。俺のため?」
「さっくんのためだよ」
「やばぁ。あ、てか撮ってる?」
「撮ってる!」
「ふーん。……じゃあ、今日はこれで終わり。残りの時間、全部俺にちょうだい?」

目を細めて笑う彼はいつもの子犬のような顔から、妖艶な獣のそれに変わっていた。囁くようなテノールボイスは耳に心地よくて、特にさっくんの声は従わずにいられない。その気にさせてしまうというか、なんというか。とにかく私はこの声に弱い。たぶんさっくんもそれを分かっててやってるんだと思う。
締めの挨拶も早々に動画を終わらせスマホをテーブルに置く。

「ほんと、超可愛い。……ちゅーしていい?」
「ん……」
「あ、でもなんか、名前としてんのか、マックイーンとしてんのかわかんなくなりそう」
「じゃあだめ。しない」
「ええ!? んじゃ、んじゃあ! 写真だけ撮らせて!」
「……まぁ、そのくらい、なら」

私が返事をするのと同時にさっくんは自分のスマホを取り出して何枚も写真を撮った。そして満足すると「……また、嫁の格好してくれる?」と尋ねてきた。

「さっくんが、してほしいんだったら……、考えてもいいよ?」
「ほんとに!? んじゃ、次はぁ、とらドラの大河もしてほしいし……!」

長くなりそうな気配を感じて洗面台へと向かう。化粧を落として、いつもの自分に戻る。鏡に映った見慣れた顔にほっとして彼のもとへ帰ると「おかえりぃ」と緩んだ顔で迎えられた。

「いつもの名前だ」
「まだコスプレしてた方が良かった?」
「んーん、どんな名前も超可愛いから! すっぴんもすげー好き!」

そう言って彼は私の額と頬にキスを落とした。

「こっちは? してくれないの?」

冗談交じりで唇を突き出せば、さっくんは少し照れた顔を見せて「好きな物って、最後まで取っときたいじゃん?」と呟いた。
刹那、唇が奪われ、私たちは深いキスを交わした。