笑顔が可愛いジムトレーナー

「岩本さん! 今日もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。体大丈夫ですか?」
「大丈夫です! 最近ちょっとだけ体軽くなった気もして……!」
「だったら良かったです。今日もけっこー辛いんで、無理だなって思ったら言ってください」
「はい!」

岩本さんの言う『辛い』は本当に辛い。ただ、このトレーニング以上のことを平気でこなす彼の姿を見ていると、私も負けていられないと思ってしまう。


***


「そういえば、苗字さんがジムに行こうと思ったきっかけってなんですか?」
「え? あー……」

運動をしながら他愛もない話が出来る程度には体力もついてきている。ちょっと困った表情をしてしまったかもしれない。くしゃと顔を歪ませて「元彼を見返してやろうと思って」と言葉を紡いだ。

「私から別れ切り出したんですけど、そしたら逆になんか、太ってるとかブスとか言ってきて。だから綺麗になって見返してやろうって思って。馬鹿みたいな話ですけど」
「……いいんじゃないですか」
「えっ」
「いいと思います。実際苗字さん、初めて来た時よりも綺麗になってますし」

そんなふうに言われるなんて思ってもなかった。目をぱちくりさせてると、岩本さんはくしゃと笑って「そういうとこ、可愛いと思います」と呟いた。

「あ、ありがとうございます……! 今ので、やる気出ました!」
「んじゃ、もうひと頑張りしましょうか」

そう言って笑った岩本さんはトレーナーとしての真剣な顔になっていて、不覚にもきゅんとしてしまった。ただ、1回、可愛いと言われただけなのに。社交辞令であろうその言葉を真に受けるほど幼くもないのに……、どうしてか意識してしまう。


***


「お疲れ様です。今日のメニューはこれで終わりです」
「あ、ありがとう……ございます……!」
「あはは、最後の、やっぱり辛かったですか?」
「はい……、かなり……」
「でも、全力で頑張ってましたね」

偉い偉い、と私の髪を撫でる岩本さん。少し距離が近くて心臓が跳ねる。シャワー浴びといて良かった……。

「苗字さん、この後時間あります?」
「えっ」
「俺、これで仕事終わりなんで、良かったらご飯行きません?」
「え、あ、えっと、はい……! 喜んで……!」

くしゃりと緩んだ子供みたいな笑みで「良かったぁ」と呟く彼が可愛くて、目が離せなくて、胸のきゅんが止まらなくて……。ああ、好きなんだと気付いた時にはもうこの恋は始まっていた。