雪解けと僕

マネージャーから新しい仕事の報せが舞い込んだ。映画の仕事らしい。恋愛ものだって。勿論相手がいるわけで、その相手の名前に「えっ」と声が洩れた。

目黒「阿部名前さん?」
マネージャー「そうです」
目黒「それって日向坂46の?」
マネージャー「そうです」

マネージャーが楽屋を出た後、小さな声で「よしっ」と思わずガッツポーズしてしまった。

阿部「なんかいい事あった?」

入れ違いで入ってきた阿部ちゃんとラウールにそれを見られてたらしい。ラウールは俺の横に腰掛けて「なになに?」って聞いてくる。

目黒「映画、決まった」
ラウール「えー! おめでとう!!」
阿部「凄いじゃん、おめでとう。どんなやつ?」
目黒「恋愛系なんだけど……」
ラウール「めめの得意分野」
目黒「得意じゃねえよ」

言葉を濁してると、誰かのスマホの通知音が鳴った。犯人は阿部ちゃん。

阿部「あ、え、え!?」
ラウール「どうかした?」
阿部「そういうことかぁ〜……!」
ラウール「え、なになに?!」
阿部「相手役、名前なんだね」
ラウール「知り合い?」
阿部「俺の妹」
ラウール「え、阿部ちゃん妹もいたの?!」

2人の間で話が進む。さっきの通知、名前さんからだったのかな。本当に兄妹仲が良いから、こうしてすぐ連絡がいくんだろうなってどこか他人事な感じで頭の中の俺が呟く。

阿部「いやぁ〜、目黒と名前が映画か〜。どんな風になるか今からもう楽しみ」

いつもの阿部ちゃんスマイルが炸裂して、少しだけ胸を撫で下ろした。これで阿部ちゃんがキレたらどうしようかって少しだけ思ってたとこもあるから。
遅れて楽屋入りしたふっかさんやしょっぴー、佐久間くんが「何の話してんの?」と集まってくる。ラウールが嬉々として「めめに新しい仕事が決まりました! 恋愛映画!」なんて話すから、話さざるをえない感じになって、言葉を探す。

深澤「うわー、目黒もついにラブシーンやんのかぁ」
阿部「ついにって教場でもやってたけど」
深澤「あ、そっか」
佐久間「杣くんに敬礼!」
深澤「なんてタイトル?」
目黒「『放課後、恋した。』ってやつ」
佐久間「え! それ!? やば! うわ超楽しみ!!」

さすが佐久間くん。しっかり原作の少女漫画をチェックしてた。「すんげぇきゅんきゅんするよ」って笑ってて、俺にプレッシャーをかけてきた。あと漫画貸してもらえることになった。

渡辺「相手誰?」
ラウール「阿部くんの妹さん」
渡辺「え、え? 名前??」
深澤「え、名前が恋愛ものやってんのとか俺見れない」

ふっかさんとしょっぴーは顔を手で覆って「どーしよ」なんて言って、ちょっと落ち込んでた。佐久間くんは「妹取られたー!」なんていつものテンションで言ってのける。

目黒「ふっかさんたちも名前さんのこと知ってんの?」
深澤「いや知ってるも何も阿部ちゃんの妹だぜ?」
佐久間「昔よく遊んでたし」

なるほど。大人になってから彼女に出会った俺と違って、みんなは彼女が小さい頃からよく知ってると。子供の頃なら家族ぐるみでの交流も少なくないか。

深澤「阿部、びしっと言っとかなくていいの?」
阿部「え、何を?」
佐久間「俺の目が黒いうちは名前は嫁にやらん! って」
渡辺「ぐわはははッ」
阿部「お父さんじゃん。俺の役目じゃないよそれ」
深澤「いやでも、でもさ! これで目黒と名前がいい感じになったらどうすんの!?」
阿部「そこは本人たちの気持ちを尊重します。てかまだ出演することが決まっただけなのに焦りすぎだよ、ふっかは」
深澤「いや焦るでしょ!? 俺の可愛い名前よ!?」
阿部「ふっかのじゃないから」

自分の妹かってくらい名前さんのことを溺愛しているようなふっかさん。阿部ちゃんが苦笑するくらいってどんなだよ、と俺も笑ってしまう。
「ま、頑張れよ」と背中を叩かれる。ふっかさんとしょっぴーのがちょっと強めで、阿部ちゃんのもちょっと強めだった。みんなもっと手加減して。