そんな簡単に愛を叫ばないで

物語も佳境に入り緊張が全身に走る。俺の服の裾をぎゅっと掴む彼女。全身が震えていて、すぐにでも抱きしめたくなった。

「好き。私の方がもっとずっと前から」

いつになく真剣な顔した彼女に見つめられ、うるさいくらいに心臓が高鳴る。

「久世くんが、好き」

そう彼女が口にする。何も言わず彼女を見つめれば、じわりと涙が滲んでいて、でも何も出来ないもどかしさに襲われる。

「あれ、なんで。ごめん。……とまんないや」

涙を拭いながら、ふにゃりと笑う彼女。その姿があまりにも愛おしくて、強く抱きしめて俺の腕の中に閉じ込めた。このまま時間が止まれば、なんて非科学的なこと望んでしまう。

「久世くん……」
目黒「やっべ……。嬉しすぎて死にそう」

渚の気持ちと俺の気持ちがいつの間にか混同していて、流れでキスしそうになったところで、カットがかかる。……今更かもしれないけど、やっと確信した。俺は名前ちゃんが好きだってこと。




スタッフ「目黒さん、阿部さんクランクアップです!」
「ありがとうございました!」
目黒「ありがとうございました!」

スタッフさんからそれぞれに花束が手渡される。嬉しそうにはにかむ名前ちゃんと目が合って、俺も同じように笑った。
沢山のスタッフさんに囲まれて話して、しばらくして解放された頃にそっと彼女に近寄った。

目黒「ねえ」
「ん?」
目黒「連絡先、教えてくれない?」

小声でそう呟く。煩いくらい心臓が鳴り響いてて、彼女にまで伝わりそうで照れくさい。

「ん、ふふ」
目黒「何?」

花束を持ったまま、くすくすと笑う名前ちゃん。「はい、これ」と彼女は俺に一通の手紙を差し出した。

「帰ってから読んでね」
目黒「え、あ、うん」
スタッフ「目黒くんも名前ちゃんから手紙貰ったんですか?」

ひょこっと現れた女性のスタッフさんがにこりと笑顔を浮かべる。あ、見られた。と思った時には遅かったけど、スタッフさんの『目黒くんも』って言葉が気になった。

目黒「俺、も?」
スタッフ「私も昨日貰ったんです。ね?」
「ねー。今回初めて映画の現場で、凄く皆さんに助けていただいたのでそのお礼も兼ねて」
スタッフ「もうきゅんきゅんですよね!」

よく見れば他のスタッフさんたちも片手に封筒を持っている人が多く、監督もその1人だった。何書いてあんだろ。気になったけど、帰ってから読んでねと言われた以上、その言葉に従った。
そして俺は彼女の連絡先を聞けないまま、現場から去ることとなった。