新しい日々の中で
デルカダール城下町に舞い戻ってきたオレたちは、長居をする訳にはいかないから直ぐ様目的の物を回収するべく隠し場所であるゴミ捨て場に向かった。だが、そこには文字通りゴミしか無く、隠したはずのレッドオーブは誰かに持って行かれたのだと考えが行き着いた。そして、持って行ける人間はここにレッドオーブがある事を知っている人物だという事。
「デクの野郎、裏切りやがったな!」
「カミュ、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかよ!」
「その人に話を聞けないのかな?」
アネットとイレブンにやんわりと窘められ、デクと話をする為居場所を知っているであろう下宿の女将を探すことになった。てっきり宿にいると思っていたが買い出しに出ているのか下宿には女将の姿は見えず、オレがイライラしてるのが伝わってしまったのか東と西で二手に分かれて探そうという案がイレブンから出た。
「そうだな、じゃあイレブンは火の見やぐらの方を頼む。アネットはどうする?イレブンについて行くか?」
「私、ここで女将待ってるよ」
「うん。それがいいかも。ここの道あんまり綺麗じゃないから怪我しちゃうかも」
そこら辺にあった適当な樽の上にアネットを座らせて、イレブンに女将の特徴を教えて、オレたちはそれぞれ行動を開始した。この辺はオレが捕まる前と何ら変わらない。治安の悪さとかちょっと小汚い感じとか、何も変わらない。そういえば、レッドオーブとは別のところに何時だったか貰った鍛冶台を隠してあったはずだ。結局オレは使わずじまいだったが、もしかしたらイレブンはアレを有効活用してくれるかもしれない。そうと決まればちょっくら寄り道して行くか。
女将は見つからないまま端まで来てしまった。という事はイレブンが探している火の見やぐらの方にいるんだろう。確かあっちには城下町へ行ける小道があったはず、女将は城下町にもよく顔を出していたっけか。イレブンと合流するべく火の見やぐらまで来た所で、やぐらと屋根の間に張ってあるロープの上を歩くイレブンを見て思わず言葉を失った。
「あ、カミュ。さっき女将さんっぽい人が歩いて来たよ」
「お、おう…」
「あとステテコパンツを見つけた」
「マジか、お前、なんかすげぇな…。元気なのはいいが、あんまり目立つような事するなよ?」
「うん。わかった」
本当に分かっているんだろうな。あとそのステテコパンツをどうするつもりで持って来たんだ。装備袋にしまうのを複雑な気持ちで待って、アネットが待っている下宿へ向かった。女将も戻って来ているようだし、デクの居場所を知っていればいいが…。
結論から言うと、女将はデクの居場所を知っていた。貴族街で商売を始めたらしいという女将の証言と、イレブンが城に行く前に貴族街で閉まっていて入れなかったが店を見たという。貴族街で商売を始められるような金をアイツは持っていなかったのに、どうして、と考えるよりも先にレッドオーブとオレを売ったんだな、と考えが至った。「詳しくは本人に聞いとくれ」という女将の言葉により、オレたちはテクの店を目指すことになった。城下町へ続く小道を塞ぐ兵士を犬で追っ払おうと、犬を飼ってる少女に頼んだがレッドベリーと聖水を持って来いと交換条件を出され、アネットがレッドベリーを拾っていたが聖水を持っていなく追い返されてしまう。仕方ないから道具屋で買うかと悩んでいると、イレブンが妙案を思いつく。
「そういえば、女将さんが踊り子のダイアナさんの字にそっくりの字が書けるみたいなんだって」
「……ああ、酒場でよく踊ってる奴か」
「あの兵士ってそのダイアナさんが好きみたいだから、女将さんに兵士を呼び出すような内容の手紙を書いて貰うのってどうかな?」
「イレブンはこの辺に知り合いでも居るの?」
アネットの疑問はオレも思ったが、イレブンは「ステテコパンツの近くにいた少年が教えてくれたんだ」なんて言っている。おい、アネットが「ステテコパンツ…?」と首を傾げているだろ。このステテコパンツの話を掘り下げても何も得られないだろうから、イレブンの案を実行する為にオレたちは1度女将の下宿に戻ることにした。その途中、犬がこちらに向かって吠えていたのだが、それと同時にアネットに腰布を引っ張られた。
「アネット、お前犬が苦手なのか?」
「うーん、なんかびっくりしちゃう」
「慣れれば可愛いよ!」
「慣れるかな…」
嫌いではないようだが、明らかに苦手なんだろうな。元からあんまり表情豊かではなかったが、犬が吠えてからはずっと眉間にシワが寄っている。
「ま、犬と旅するわけじゃねーし、大丈夫だろ」
「うん、そうだね。アネットのペースで慣れていけばいいよ」
「わかった」
イレブンはどうしてもアネットと犬を仲良くさせたいらしい。確かにイレブンはどう見ても犬派だろうけど、アネットは犬派というより猫派だろうな。マイペースな感じがするし。女将に手紙を認めてもらってる間も、イシの村で幼馴染みが飼っていたルキという犬の事をアネットに熱心に語っていた。
「犬の布教はそこまでにしてくれよ。そろそろ行くぞ、勇者さま」
「あ、ごめん。つい夢中なっちゃった」
「兵士さん退いてくれるかな?」
「ダメだったら聖水買って犬を借りようぜ」
オレの提案にアネットは一応「うん」と頷きはしたが、再び眉間にシワが寄っているから表情は素直なようだ。イレブンもアネットの表情を見て苦笑いしている。しかし、アネットのそれも杞憂だったようで、手紙を受け取った兵士は意気揚々に呼び出された場所まで走って行った。いくら好意を寄せている女性だからといって、誰も来ない事に諦めて持ち場に戻って来るなんて事も有り得るから、さっさと用事を済ませなければ。
「さあ、行くぞ2人とも」
「「うん」」
小道を抜けて城下町に潜り込んだオレたちは、どうにか見張りのいる中央階段を通らずに貴族街に行くか悩んでいた。ここで兵士と鉢合わせしてしまうとオレたちは確実に捕まってしまうだろう。考えを巡らせてうんうん悩んでいるオレとイレブンを余所にアネットはぼんやり空を見ていた。街の構造を知らないアネットにいい案を考えろと言っても無駄だろうから放っておいた。
「見つからないで上に行ければいいの?」
「そうだな、デクの店は上層の貴族街にあるらしいからな」
「それじゃあ、あのロープを伝って行けないかな?」
「は?ロープ?」「え?ロープ?」
イレブンと声を揃えてアネットが指さす方を見ると、そこにあるのはお誂え向きに民家の屋根と貴族街を結ぶロープだった。まさにすぎて見つけたアネットの頭をくしゃくしゃに撫でてやる。そのあとイレブンが屋根まで登れそうな場所を見つけて難なく貴族街への潜入を果たす。
「すぐそこのお店、昼は店主がいなくて入れなかったんだけど、もしかしたらそこがデクさんのお店だったのかも」
「とりあえず行ってみるか」
「違ったらどうするの?」
「あー、……なんとかする」
なんとかすると言ったものの、何かいい案がある訳ではなく、寧ろ何も思い付いてなんかいなかった。しかし、うだうだ悩んで長居するより、ササッと用事を済ませてしまった方がいいだろう。イレブンが言っていた店は外観もたいそう立派で、貴族街に相応しいものだった。
「へぇ…、なかなかいい店じゃないか」
店内に入ってカウンターの商品を並べてこちらに背を向けているあの店主の姿は間違いなくデクだった。嫌味を込めたオレの言葉に振り向いたデクを殴ろうと拳を構えるが、デクが勢い良く抱きついて来た事によりそれは行き場をなくしてしまう。
「アニキー!お化けじゃない!本物のアニキだー!!」
「お、おい、引っ付くな!離れろ、むさ苦しい!」
体格のいいデクに抱き着かれるのでもむさ苦しくて勘弁なのに、あまつさえ涙ぐんでいるのには本当に困ったものだ。殴る気も無くなりデクを引き剥がし、ため息混じりに本題を投げつける。
「ったく、調子のいいこと言いやがって。この店だってオレを裏切ってオーブを売った金で始めたんじゃないのか?」
「裏切るわけ無いよー! アニキのことは1日だって忘れた事無かったよー!」
その後語られたデクの話だと、オレが捕まり最下層の地下牢に入れられた事を知るやいなやオーブを拾ったと称し城へ返上し、褒美として貰った金でここに店を構え商売を始めた。その始めた商売が、デクには合っていたようで結構な額を稼いでいるらしい。そして稼いだ金を兵士に賄賂として渡し、オレが早く出てこられるように働き掛けてくれていたらしい。
「デクさん、優しい人だね」
「アニキの為ならこんな事何でもないよー」
「よかったね、カミュ」
イレブンの隣で一部始終を見ていたアネットが、少し口角を上げて笑っていた。イレブンもすごい笑うヤツではないが、アネットは普段無表情な事が多いからか、こう、表情を見せられると印象に残るというか、一々頭に残るんだよな。
「あー、そうだデク。こいつに合う装備品を見繕ってくれないか?」
「任せておいてよ!一流の品を見繕わせてもらうよー」
「おう、あんまり目立つようなのは勘弁な」
「アネットよかったね」
「うん」
アネットはデクの嫁さんに連れられて奥の部屋に消えていった。この貴族街や一般庶民の城下町は綺麗に整備されているからまだマシだが、貧民街を裸足で歩かせるのは本当に気が気じゃなかった。割れた瓶の破片なんか当たり前に放置されていたり、穴ボコだらけで道自体が尖っていたりする。行きはそんな道を裸足で歩かせてしまったが、これで帰りは安心だな。
「あ、デク。そういや、オレたちあんまり手持ちが多くないんだ」
「アニキからお金なんて貰うわけないよ!」
「は?それだと商売にならないだろ」
「アニキの為に始めた商売なんだから、最後までアニキの為にサポートするよ!」
デクはそう言うが、いくらレッドオーブの報奨金があったからとはいえ、この店をここまで続けたこられたのはデクの努力だろう。それに今では嫁さんもいる。そんな奴に頼ってばかりじゃ居られない。
「ありがとよ。けど、お前に面倒をかけるのはこれで最後だ」
「次来る時は、今日のお礼させてください」
「ま、オレたちお尋ね者だから次がなかなか来ないかもしれないけどな」
「そうだった、お尋ね者だった」と笑いながら言うイレブン。やっぱりお前忘れてただろ。それからアネットを待ってる間、レッドオーブの行方をデクが教えてくれ今後の目的地が決まった。ナプガーナ密林を抜けてイレブンの故郷のイシの村に行ってから、デルカダール神殿にあるレッドオーブをいただく。そう話がまとまった時、奥の扉が開いた。
「皆さんお待たせしました」
「この靴、すこし歩きにくい」
戻って来るなり不満を漏らすアネットに「似合ってるよ」と駆け寄るイレブン。今までの白いワンピースもシンプルで似合っていたが、今の冒険者の装いもイレブンと似たような雰囲気で似合っている。こう2人で並んでいるとやっぱりこいつらは兄妹だと、別に疑っちゃいなかったが納得する。
「見違えたな、すごい似合ってる」
「…うん。ありがとう」
「靴もちゃんと馴染んでいくよ」
「うん…」
頑なに靴に嫌悪感を示すこの様子を見ると、今まで靴を履かないで過ごして来たんだろう。しかし裸足になられても困るからアネットには我慢してもらう事として、デクにもう一度礼を言ってからオレ達はデルカダールをひっそりと抜け出した。