いずれ失うものの為

言われるがままにデルカダールの王へ謁見する為に村を出て、初めての街にドキドキしながら城を目指し、城に着いて王様に会ったら悪魔の子などと言われ、地下牢に入れられた。しかも極悪人しか入れられないという最下層の牢に。そこで出会った青い瞳の男の人が脱獄を計画していて、運良く僕らは牢からは出られる事が出来た。彼が掘った穴は地下水路に繋がっていてその道中、危うく捕まりそうになったけど橋の崩落というアクシデントにより難を逃れ今に至る。

「おい、大丈夫か?」
「んん、なんとか…」

流れ着いたのは女神像がある少し開けた場所だった。追っ手はどうやらいないみたいだけど、ここはまだ外ではないようで陽の光は見えず岩肌が頭上を覆っていた。

「追っ手はいないようだが、ゆっくり休んでいる余裕はないな。大丈夫そうなら先を急ごう」

デルカダールの城の地下にこんな洞窟があるなんて思わなかった。上着の裾を絞ってから歩き出した彼を追いかける。追いついて少し歩くと鼻歌の様な歌を歌う少女の声が微かに聞こえて来た。歌声が聞こえてきた事により警戒を強めるが、引き返すにしても他の道が無かったし泳いで逃げるのは得策とは言えないだろう。彼に目を向けると頷かれたので、このまま進むようだ。開けた場所に出ると1人の少女が寝そべるドラゴンの前で、まるでその唄を聞かせるように歌い踊っていた。

「お、おいマジかよ……」
「誰!?」

ドラゴンがいる事についてか、そのドラゴンの前にいる少女についてか、彼はそう呟いた。その呟きは洞窟内で反響し、少女とドラゴンの耳にも届いたようだった。振り返った少女は警戒を露わにして、ドラゴンは立ち上がり鼻息を荒くし始めた。少女もドラゴンの足にしがみついてまるで怯えるみたいに…。

「待って!僕たち君を危険な目に合わせたりしないから!ただ道に迷ってしまっただけなんだ!!」
「お、おう…!外に出るには何処へ行けばいい?」

僕が必死に言葉を繋げると彼もその意図を汲み取ってくれて乗ってくれた。その甲斐あってか少女の警戒心が少し解けたようだった。威嚇するドラゴンを宥めて、僕らと話をしてくれるようでドラゴンの影から出てきた。

「…あなた達は外から来たんじゃないの?」
「地下牢から逃げてきたんだけど…」
「おい!そんな事まで言って大丈夫なのかよ!?」
「え、ダメだった!?」

パニックになってる頭で何とか少女と会話をしようとそればっかり考えていたから、内容まで考えてなかった。確かに少女が追っ手ではない保証なんてない。ドラゴンを従えているみたいだし…。

「……ーーーー」

少女はドラゴンに向かって何か言うとこちらに歩み寄ってきた。膝丈のワンピースを着ただけの、他に靴も履いていない少女は真っ直ぐな瞳でこう告げた。

「私はアネット。外への行き方はわからないけど、私も一緒に連れてって欲しい」

ドラゴンは再び寝そべり僕らを襲う様子は見られない。どうするべきか彼を見てみると、何か考え込んでいるようで口元に手を添えていた。少し悩んで彼は意見がまとまったようでこちらを見て頷いた。

「オレは連れて行っていいと思う」

見るからに足でまといになるであろう少女を連れて行くと言うことは、逃げ切れるか危うくなるという事だと思うけど、彼は少女ーアネットを連れて行く選択をした。僕と出会った時もそうだ。彼は僕の『勇者と名乗っただけだ』と言う言葉を疑わずに信じてくれた。そしてこうして一緒に連れ出してくれた。彼は最下層の牢に入れられていたにしてはとても優しい人だ。

「こんな所に1人残して行けないよね」
「まぁな、2人も3人も変わらないだろ」
「あ、ありがとう」

ドラゴンはいつの間にか目を閉じている。そのドラゴンに向かって小さく「いってきます」と呟いた声を聞いたあと、先に歩き出していた彼を追うように僕らは歩き出した。


長い洞窟を抜け、また地下水路に出た後不運な事に兵士に見つかり、走って光の射す方へ逃げて外へ出る事が出来たけど、眼前に広がるのは雄大な滝と途切れた道。「やられたな…」隣からそう聞こえた。後ろからは兵士の足音と鎧の音が近くまで来ているのが聞こえる。

「ここで捕まったらオレもお前らも長くは生きられない。だからこそオレは、勇者の奇跡とやらを信じてみようと思う」
「……でも」
「私は、私を一緒に連れ出してくれた2人を信じています」

日に照らされたアネットは仄暗い洞窟で見るより遥かに白く、本人は大丈夫と言っているがとてもじゃないけど心配だ。だけど、どうこう言ってる場合じゃないのは分かっている。ジリジリと距離を詰めてくる兵士に捕まるわけにはいかない、少し怖いけどそれは2人だって同じだ。僕は頷いた。

「イレブン、アネット」

彼が僕らの名前を呼んだ。視線を向けると、今までフードに隠されていた鮮やかな青い髪の毛が視界に入った。見えずらかった素顔も今でははっきり見える。

「オレの名はカミュ。覚えておいてくれよな」

カミュの言葉に「もちろん」と答えて、僕達は崖に向かって走り出した。その時遅れそうになったアネットの手を取り、そのまま僕らは空を飛んだ。

NEVER LAND
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