不完全なぼくらの物語

ヴァンに神託の盾騎士団に勧誘されてから3年が経ち、他の団員と仲良くは出来てないが生活には慣れ本部でも迷うなんて事も無くなった。入団試験に合格した時にヴァンが教えてくれた計画に加担する為に、日々の鍛錬も怠らず魔物討伐の任務とかは自主的に参加するようにして男ばかりの団員に劣らないように努力をして来た。女は導師守護役を目指せと馬鹿にされ稽古と称して過剰な暴力を受けたりバケツで水をかけるなど幼稚な虐めを受けたりしているが、それでも私は強くならないとならないのだ。強くなってヴァンが使いやすいような手駒にならないと私はここにいる意味がない。だから今日も鍛錬場の隅で1人鍛錬に励んでいる。たまに飛んでくる譜術を避けながらなんて他の団員に比べたらとても実践向きじゃないか。

「エルナ」
「…なんですか、師団長」
「ヴァン謡将がエルナを呼んでいるよ」

声をかけて来たのは私が所属している第五師団の師団長。頼まれたら断れないタイプの人間で、早死にしそうな奴。30代後半で妻子はいない独身。だけど師団長に相応しい強さを持ち団員には慕われていて、虐めを受ける私を気遣ってくれる唯一の人。それがまた気に食わないのか、師団長に媚びてどうたらこうたらと因縁を付けてくる。現に今もヴァンに呼び出されたと聞いて「やっと役立たずがクビになるぞ」と嬉しそうに話している。

「ほら、彼らは気にしなくていいから行っておいで」
「別にアンタじゃないからあんなクソ共気にしてない」
「女の子なんだからもっと丁寧な言葉を使いなさい」

返事をせずに鍛錬場を出る。アイツは何も分かっていない、普通の女の子みたいな喋り方なんてしたらもっと馬鹿にされる。冷たい廊下をヒールを鳴らしながら歩く。すれ違う兵士は殆どが鎧を身に纏っているが、私に鎧は支給されていない。合うサイズが無いからという何とも情け無い理由で。下っ端の私にオーダーメイドで作ってくれる程神託の盾は優しく無い。何度目かの角を曲がると一般兵はぱったりと居なくなる。一度溜め息を吐いてから目的地の扉を叩く。

「…第五師団、エルナです」

そう言うと扉の向こうから「入りなさい」と声が聞こえてくる。言われた通りに部屋に入ると見知らぬ男の子が私の事を振り返って見ていた。コッチをジロジロ見て失礼だろ、せめてもっと人相を柔らかくしてくれ。なんで初対面の人間に睨まれなくちゃならないんだ。

「私にお話があるとお伺いしましたが」
「畏まらなくてもいいぞ。いや話、というより頼みというべきかもしれん」
「何?任務なら別に私呼び出さなくても師団長に言えばいいでしょ」

今までの任務だって師団長を経由していたんだから、今回もそれで良かったはずだ。わざわざ鍛錬を後回しにして此処に来るのに何か理由でもあるのか。久しぶりに顔を見たかったとかそういう可愛い理由ではないだろうし。ヴァンは言い淀んで少し悩むそぶりをしたが、徐に口を開いた。

「まず、そこにいるのはシンクだ。お前と同じ11歳で、いずれ第五師団に入団させようと考えている」
「ふーん。そう」
「そしてここから重要な事だ。エルナはシンクの顔を見ても驚かなかったが、これは導師イオンのレプリカなのだ」
「導師イオン?導師ってエベノスじゃなかった?」
「…お前はもう少し一般常識を勉強した方がいいな。導師エベノスは数年前に亡くなっている」

底辺の一兵卒だとしても、教団に所属している騎士団として最高司令の名前は覚えておけ、とお叱りを受けた。今まで師団長や他の団員との導師に纏わる会話で噛み合ってないような気がしたのはこれが原因か。なるほど。彼は私と同い年と言っていたけど、導師エベノスは40代と聞いた事がある。それじゃあ導師像に誤差が生じるだろう。

「それで、私にフォローしろって事?」
「そうだ。そしてシンクにはエルナのフォローをしてもらう」
「はあ?なにそれ、どういう意味」
「エルナ、お前は師団に馴染めていないようだな。協調性が無いと報告を受けている」

協調性が無いのではなく、アイツらと協調する必要がないから馴れ合わないんだ。どうせ報告をしたのはあの師団長だろう。ほんとお節介な奴。というか私に協調性が無いのをこの彼がフォロー出来るようには思えないんだけど、こう見えてコミュ力高いとかだろうか。

「ボク、1人でも大丈夫だってば」
「私だって今のままでも平気」
「いいか、2人とも。我らが成し遂げようとしている計画はどんな綻びも有ってはならない計画だ。しかしお前達はまだ子供で、私も忙しく面倒を見切れない。だから2人で支え合ってもらいたいんだ」

ヴァンは世界レプリカ化計画なんて世界を脅かすような壮大な計画を企てているけど、私の前ではスリを行なっていた時に顔を出していた時と変わらずに温厚な顔しか見せない。預言を憎むくらいなんだから、もっと恐ろしい一面とかもあるだろうに、私の前ではそれを一切見せない。仲間と認識されているのかいないのか、分からないけど厳しくされるよりはこのままでも別にいいか。子供を諭すような扱いは少し癇に障るが、どうせ丸め込まれるんだと聞き流す事を最近覚えた。

「支え合うって、要はお互いを監視し合うって事だろ」
「お前達2人は、今日から家族になるという事だ」

はあ?と隣にいた彼と声が揃った。家族ってなんだよ、家族って。なんだかとても嫌な予感がする。何を考えているのかさっぱりわからないし、何を期待しているのかもわからない。ヴァンの出方を伺っていると、穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。

「エルナよ、今より広い部屋が欲しくはないか?」
「…え、なに。その急な話題転換」

彼のフォローをする褒美に広い部屋をくれるという事だろか。確かに今の部屋は狭いワンルームでベットとクローゼットしか無いような部屋で広い部屋に憧れが無いわけでは無い。でも別に今の部屋のままでも構わない。

「お前達には師団長級の部屋をやろうと考えている」
「師団長級って……」

一兵卒のワンルームとは比べ物にならない程広い部屋じゃないか。部屋というよりもう家と同じレベルの3LDKだと聞いた事がある。みんなその広い部屋や高い給料を貰える師団長になるべく努力をしていると言ってもいい程だ。正直私には手に余るが、キッチンが付いてるのは嬉しいかもしれない。食堂で食べ物を床にぶち撒けられるより彼のフォローをする方がいいかもしれない。私が揺らいでいるのが分かっただろうが、彼が口を挟む前にヴァンがその部屋だろう鍵を見せてどうするかと問うた。

「…分かった、やるよ」
「……家族なんてなれないよ」

捨て子の私には楽しかった家族の思い出はないに等しいけど、彼はレプリカだからそもそも家族という概念が存在しないんだ。家族になれないと言った彼の言葉は、どんな感情が込められていたのか私には分からない。




<< >>
ALICE+