見えない縄でがんじがらめ
吹き飛ばされ、転ばし、打撃を喰らい、蹴り飛ばしを繰り返しながらシンクとの組手は思ったより白熱していた。体格差も他の団員に比べると無いからか、感覚が似ていてそれでいて本気で戦ってくれているからか、はたまたその両方か。素直に言うのは癪だけど、ヴァンに騎士団に勧誘されてから今までで1番充実してる組手かもしれない。
「私はアンタを家族として認めた訳では無いから」
「ああ、ボクもだから安心してよ」
「……でも、いい鍛錬になったと思う。ありがとう」
「アンタもちゃんとお礼言えたんだね」
すごく失礼な言われようだけど、確かにお礼なんて入団してからもする前からもあんまり言わなかったから反論しづらい。普通の女の子みたいに、ふんわり笑ってお礼を言う私なんて気持ち悪いだろう。
「私は変なプライドを持ってないから」
「へえ……。いいんじゃないの、素直な事は」
思っても無いことを言っていると気付きつつもそれに合わせておこう。帰り支度をしていると、シンクがこちらを見ずに話題を振ってきた。
「……アンタさ、普段短剣を使うんだろ?」
「何急に、……そうだけど?」
「剣がある時は別に問題ないけど、組み手とか剣が無い時は拳より脚の方がいいと思う」
「……なんで」
「脚の方が重い打撃だったから、脚技も鍛えた方が今後いざと言う時得するかもね」
シンクが何故この様なアドバイスをしてくれるのか分からないが、確かに脚の方が力が入れやすい。次回からは脚技を鍛えるのも悪くないかもしれない。強くなって困ることはないのだから。
背中を向けたまま自分の言いたいことだけを言って、しっかりと仮面を付けて出て行ったシンクになにも不自然な所は見受ける事は出来なかった。ヴァンあたりに私とちゃんと仲良くしなさいとでも言われたのかと思ったけれど、シンクのあの性格ではヴァンに言われたからと言って素直に私と仲良くするとは思えない。かと言って、自分からこうして組手だけでなくアドバイスまでしてくれるのは、シンクに得がなさすぎる気がするのだけれど後で何か見返りを請求されるのではないだろうな。
「……明日から少し中庭でも走ろうかな」
と、この時少しはシンクへの好感度が上がったのだけれど、翌朝の一件で一気に最悪になってしまう。
「ホント信じられない!!」
「アンタの寝相の悪さに比べたらボクなんて可愛いもんだろ!」
「はあ?何言ってんの女の子の顔面殴るような奴が寝相良いと思ってんの?」
「女の子なんてどこにいるのさ!ボクの腹蹴るような奴が女の子名乗るなよ!服も着ないで部屋歩き回る奴は女じゃないね!!」
「自分の部屋なんだからどんな格好でいたっていいじゃない!」
お互いヒートアップしてしまい朝から盛大に取っ組み合いの喧嘩をしてしまっている。今まで1人で部屋を好き勝手使っていたいたから、その生活を変えられずに2人の生活をしているから、私だけじゃなくシンクもストレスが溜まっていたのだろう。1度爆発してしまった不満は次から次へと溢れ出し、1時間が経っても鎮火することなく激しさを増すばかりだった。
「家族に捨てられたくせに!」
「うるさいな!レプリカのクセに!」
「2人共いい加減にしなさい。廊下まで聞こえていたぞ」
結局ヴァンが部屋に入ってきて私達2人を抑え込むまで終わらなかっただろう。今日のこの喧嘩でリビングと寝室を繋ぐドアが壊れ、ダイニングテーブルも真っ二つになり、あらゆる所の壁に穴が開いた。その他にも時計や調理器具なども壊れている。
「昨日の稽古の時よりも本気でやり合ったようだな。くだらない事で怪我を増やすのは感心しない」
「私悪くないもん。シンクが最初に手を出した!」
「何言ってんの?最初に蹴りを入れてきたのアンタだろ!!」
「いい加減にしなさいと言ってるだろう」
また口論になりかけたがヴァンが再び釘を刺しお互いを睨みつけるまでで済んだ。睨み合う私達にヴァンは深めの溜め息を吐き、ここに来た本題を語り始めた。
「1ヶ月後にお前達に任せたい大きな仕事があるのだ」
「そんなに先の話を今?」
「大きな仕事と言っただろう。しっかり準備しないと最悪の場合死ぬかもしれない、それほどの任務だ」
今まで私個人に回ってきた任務は、ダアトの街のゴミ拾いや見回り、困ってる人を助けて来いなど任務とは言えない社会奉仕しかなかった。それはヴァンが「今までやってきた盗みや人を騙した事への償いをしなさい」と言って始まった社会復帰の第一歩のようなものだった。別にこの任務に不満はなかったし、疑問もなかった。それがいきなり大きな仕事と銘打って任せられるわけが無い。本当に大きな仕事なのだろう。死ぬかもしれないって言ってるし。
「2人でザレッホ火山へ行き、異常や何か問題がないか確認して来てもらいたい」
「ザレッホ火山…」
「何かを討伐とか採取して来る訳じゃないんだね」
「ザレッホ火山に生息している魔物はお前達より格段にレベルが高い。しかしエルナは第四音素を得意としている、シンクの第三音素も使えば無理ということは無い」
簡単に言うけれど、ザレッホ火山なんて言ったことも無いし異常であるかどうかなんて分からないじゃない。1ヶ月後とはいえさすがに不安になって黙ってしまう。シンクもヴァンを睨みつけて黙っている。
「これは2人で協力しなければ達成できないと言うことを忘れないように」
そう言うとヴァンは私、シンクの順番で頭を撫でて一言「ちゃんと片付けるように」と言ってから部屋を出ていった。残された私達は今までの喧嘩がなかったかのように静かに立ち尽くしていた。しばらくしてシンクが割れた皿や散乱した紙を片付け始めた。もう全て任せてしまおうかと思ったけれど、後でまたグチグチ言われるのも嫌だし仕方ないから箒を手にした。
「…ねぇ、この書類提出用って書いてるけど、インク塗れになってるよ」
「最悪。インク壷も割れてるのかよ」
「ペン全部折れてるよ。文房具壊滅って感じ」
「次から喧嘩は部屋を出てやろう。片付けるの面倒だ」
喧嘩しない、ではなくて外でやろうと言うのがまたシンクらしいと思った。出来なさそうな事は言わないで、達成出来そうな事を言う。喧嘩しないなんてきっと今の私達には無理な話だろう。テキパキと片付けるシンクを見て、ぼんやりそんな事を思った。
「私はアンタを家族として認めた訳では無いから」
「ああ、ボクもだから安心してよ」
「……でも、いい鍛錬になったと思う。ありがとう」
「アンタもちゃんとお礼言えたんだね」
すごく失礼な言われようだけど、確かにお礼なんて入団してからもする前からもあんまり言わなかったから反論しづらい。普通の女の子みたいに、ふんわり笑ってお礼を言う私なんて気持ち悪いだろう。
「私は変なプライドを持ってないから」
「へえ……。いいんじゃないの、素直な事は」
思っても無いことを言っていると気付きつつもそれに合わせておこう。帰り支度をしていると、シンクがこちらを見ずに話題を振ってきた。
「……アンタさ、普段短剣を使うんだろ?」
「何急に、……そうだけど?」
「剣がある時は別に問題ないけど、組み手とか剣が無い時は拳より脚の方がいいと思う」
「……なんで」
「脚の方が重い打撃だったから、脚技も鍛えた方が今後いざと言う時得するかもね」
シンクが何故この様なアドバイスをしてくれるのか分からないが、確かに脚の方が力が入れやすい。次回からは脚技を鍛えるのも悪くないかもしれない。強くなって困ることはないのだから。
背中を向けたまま自分の言いたいことだけを言って、しっかりと仮面を付けて出て行ったシンクになにも不自然な所は見受ける事は出来なかった。ヴァンあたりに私とちゃんと仲良くしなさいとでも言われたのかと思ったけれど、シンクのあの性格ではヴァンに言われたからと言って素直に私と仲良くするとは思えない。かと言って、自分からこうして組手だけでなくアドバイスまでしてくれるのは、シンクに得がなさすぎる気がするのだけれど後で何か見返りを請求されるのではないだろうな。
「……明日から少し中庭でも走ろうかな」
と、この時少しはシンクへの好感度が上がったのだけれど、翌朝の一件で一気に最悪になってしまう。
「ホント信じられない!!」
「アンタの寝相の悪さに比べたらボクなんて可愛いもんだろ!」
「はあ?何言ってんの女の子の顔面殴るような奴が寝相良いと思ってんの?」
「女の子なんてどこにいるのさ!ボクの腹蹴るような奴が女の子名乗るなよ!服も着ないで部屋歩き回る奴は女じゃないね!!」
「自分の部屋なんだからどんな格好でいたっていいじゃない!」
お互いヒートアップしてしまい朝から盛大に取っ組み合いの喧嘩をしてしまっている。今まで1人で部屋を好き勝手使っていたいたから、その生活を変えられずに2人の生活をしているから、私だけじゃなくシンクもストレスが溜まっていたのだろう。1度爆発してしまった不満は次から次へと溢れ出し、1時間が経っても鎮火することなく激しさを増すばかりだった。
「家族に捨てられたくせに!」
「うるさいな!レプリカのクセに!」
「2人共いい加減にしなさい。廊下まで聞こえていたぞ」
結局ヴァンが部屋に入ってきて私達2人を抑え込むまで終わらなかっただろう。今日のこの喧嘩でリビングと寝室を繋ぐドアが壊れ、ダイニングテーブルも真っ二つになり、あらゆる所の壁に穴が開いた。その他にも時計や調理器具なども壊れている。
「昨日の稽古の時よりも本気でやり合ったようだな。くだらない事で怪我を増やすのは感心しない」
「私悪くないもん。シンクが最初に手を出した!」
「何言ってんの?最初に蹴りを入れてきたのアンタだろ!!」
「いい加減にしなさいと言ってるだろう」
また口論になりかけたがヴァンが再び釘を刺しお互いを睨みつけるまでで済んだ。睨み合う私達にヴァンは深めの溜め息を吐き、ここに来た本題を語り始めた。
「1ヶ月後にお前達に任せたい大きな仕事があるのだ」
「そんなに先の話を今?」
「大きな仕事と言っただろう。しっかり準備しないと最悪の場合死ぬかもしれない、それほどの任務だ」
今まで私個人に回ってきた任務は、ダアトの街のゴミ拾いや見回り、困ってる人を助けて来いなど任務とは言えない社会奉仕しかなかった。それはヴァンが「今までやってきた盗みや人を騙した事への償いをしなさい」と言って始まった社会復帰の第一歩のようなものだった。別にこの任務に不満はなかったし、疑問もなかった。それがいきなり大きな仕事と銘打って任せられるわけが無い。本当に大きな仕事なのだろう。死ぬかもしれないって言ってるし。
「2人でザレッホ火山へ行き、異常や何か問題がないか確認して来てもらいたい」
「ザレッホ火山…」
「何かを討伐とか採取して来る訳じゃないんだね」
「ザレッホ火山に生息している魔物はお前達より格段にレベルが高い。しかしエルナは第四音素を得意としている、シンクの第三音素も使えば無理ということは無い」
簡単に言うけれど、ザレッホ火山なんて言ったことも無いし異常であるかどうかなんて分からないじゃない。1ヶ月後とはいえさすがに不安になって黙ってしまう。シンクもヴァンを睨みつけて黙っている。
「これは2人で協力しなければ達成できないと言うことを忘れないように」
そう言うとヴァンは私、シンクの順番で頭を撫でて一言「ちゃんと片付けるように」と言ってから部屋を出ていった。残された私達は今までの喧嘩がなかったかのように静かに立ち尽くしていた。しばらくしてシンクが割れた皿や散乱した紙を片付け始めた。もう全て任せてしまおうかと思ったけれど、後でまたグチグチ言われるのも嫌だし仕方ないから箒を手にした。
「…ねぇ、この書類提出用って書いてるけど、インク塗れになってるよ」
「最悪。インク壷も割れてるのかよ」
「ペン全部折れてるよ。文房具壊滅って感じ」
「次から喧嘩は部屋を出てやろう。片付けるの面倒だ」
喧嘩しない、ではなくて外でやろうと言うのがまたシンクらしいと思った。出来なさそうな事は言わないで、達成出来そうな事を言う。喧嘩しないなんてきっと今の私達には無理な話だろう。テキパキと片付けるシンクを見て、ぼんやりそんな事を思った。
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