11 天国も地獄もそれほど


「こちら蛇石。三輪隊員と合流し、ここ一帯のトリオン兵は殲滅しました」
『ご苦労様。今出てるトリオン兵反応は全部なくなったわ』
 オペレーターの通った声がイヤホン内で反響する。連日回ってくる防衛任務も、三輪君がいるだけでいつもよりも張り合いがでる。はしゃいで無駄死にしないようにしないと、本気で怒られてしまいそうだ。

「あーあ、もうじき交代の時間になっちゃうね。せっかく三輪君とシフト被ったのに」
「無駄口を叩くな。集中しろ」
「もう、つれないんだからぁ」
 わざとぶうたれてみせても、三輪君は見飽きたとばかりに相手をしてくれない。でも、私だってこの塩対応になれっこだ。いつもは可愛いくていじりがいがあるけれど、こういうときだけ表情が変わって、格好よくみえる。任務中の三輪君なんて、いつもの三割増しに見えるほどだ。
 スタスタと屋根の上を歩いている彼の後ろをついていく。この辺りの家は、私の近所と変わらないくらい綺麗なままの家が多い。ボーダー本部周辺の警戒区域の中には、崩されたままの地域も多いけど、この地域のように、綺麗なまま保たれているところもある。家の中を見ればその家族の様子が分かる、とは言うけど、廃墟同然のこの地区では、まるで人がそこに住んでいるかのように、それが色濃く残っていた。もっとも、勝手に他人の家へ上がることはないけれど。
 いくら綺麗なままとはいえ、放置されたままの街はまったく色味がなく、どこか味気なかった。でも、その中でも一際目立つものを見つけた。向かい側の道路、赤い煉瓦の家の庭に、色とりどりの花がわらわらと咲いている。手放されてから一年以上経っているというのに、花々は生き生きとそこで根を張っていた。 
「蛇石、どうした?」
 上から三輪君の声がした。足を止めた私に気づいてくれたみたいだった。
「三輪君。あれ見てよ」
 先ほど目を奪われた場所を指さす。三輪君は目を細め、その場所を捉えた後に、「よく咲いてるな」と一言言った。
「なんかさあ、鉢植えの中に窮屈でいるよりも、ああやって外の土に咲いてた方が綺麗に見えるな。なんか、生き生きしてみえる」
「すごいな。生命力を感じる」
 彼らは、人の手を借りずとも勝手に花を咲かせて、種を蒔いて、また違う芽が芽吹く。それの繰り返しなのだろう。
「……あの人に知らせてあげたい。そんなに手をかけてもしょうがないよって。そのうち溢れ出してしまうんだから」
 そんなしょうもないことに人生をかけている母親の姿が頭に浮かぶ。もう私には、あの人以上に支えてくれる人がいる。尊重してくれる人がいる。それを教えてくれたのは、他でもない、隣にいるこの人だ。
 三輪君は、「蛇石らしいな」とひとこと言ったのち、穏やかに笑った。まるで秘密を共有するような顔つきで、にやりと私の方を見た。

 さあ、鉢植えから流れ出した私たちは、どこへ向かおうね。
 三輪君と一緒に居られるなら、きっとどこへだって行けるよ。だって、三輪君と私はずっとずっと繋がっているって、そう約束したから。