三輪くんの浮いた背骨


 カーテンがはためいたのと同時に、ぼんやりした白い明かりが三輪君の背中にぽつりと落ちる。
「今日は暖かいから」 といって少し窓を開けたけれど、さすがに素肌には涼しすぎたみたいで、反射的に肩をすくめた。
私は三輪君側に偏った布団を引き寄せ、なにも着ていない横着な体をすっぽりと隠した。私に背を向けたこの人は、寝息を立てることも、寝返りをうつこともない。
砂時計のようにさらさらと流れていくような、このけだるい時間が私は好きだ。何も考えなくても、三輪君が側にいるということを実感できるから。
 
「三輪君の背骨、浮いてる」
 うっすらと見えるそれを指先ですすりとなぞる。肩甲骨の隙間から肋骨、脇腹。いくら背中をなぞっても、三輪君はぴくりともしない。
誰も喋らない夜は静かなようで、いろいろな雑音が溢れてうるさい。虫の音、よその室外機のうるさい音、たまに猫の声なんかも。一人でいるときは全然気にならないのに、三輪君と一緒にいるときだけ、周りの音がよく聞こえるような気がして何か変だ。頭が冴えているのか、はたまた三輪君の音を聞き逃さないように必死になっているのか。
後者だったとしたら、絶対三輪君には知られたくないな。そう思いながら、肋骨の間あたりに指を滑らせる。
肋骨の一番最後を通り越し、骨がなくなったところをふよふよと押していると、今まで静かだった三輪君がむくりと寝返りを打った。
「……蛇石の方が細いだろ」
 少し眠そうな、気の抜けた声が耳に響く。いつもの三輪君が炭酸水だとしたら、今の三輪君はコップに注いで一時間くらい経ったソーダ水みたいだ。
「それはそうだけどさ、私と比べるのはどうなの」
「……あばらだって全然肉がないぞ」
 三輪君はそう言って、私の脇腹に手のひらをそっと添えた。夜風で冷えた体に、三輪君の暖かい体温が染み渡る。よっぽど眠たいのか、手はぽかぽかに温まっている。
「あばらねえ。肉がつかないんだよね。気持ち悪いくらい浮き出てる」
 三輪君は私の言葉に特に相槌を打たず、手は脇腹の上に置いたまま、すうすうと、ただ息をしている。
 上半身に肉がつきにくいこの体は、昔からちょっとしたコンプレックスだった。薄っぺらいこの体がはやく大人になりますようにと、中学生の私は我ながら可愛いお願い事をしたのを覚えてる。
でも三輪君は、こんな私の体をきれいと言ってくれる。とっても優しい目をして。
私はそれが嬉しくて、ついつい何回も聞き返してしまう。たった一人の言葉だけで十分なんて、昔の私が知ったらさぞ驚くのだろう。

「ふふ、三輪君眠たい? 手がすごく温かい」
「……ねむい」
うつろな目をしたままこちらを見る三輪君は相変わらず可愛い。
今の三輪君は、ボーダーとかA級隊長とか、そんな煩わしい肩書きなんて背負っていない、ただの17歳の三輪君だ。こんな所をボーダーの後輩達がみたらどう思うのだろう。
これは、私の前でしか見せてくれない、緩みきった三輪君だ。
「……三輪君、あばらじゃなくて、背中がいいな」
「……ん、」
「……あったかい」
 周りの雑音なんて聞こえないくらい、今の私の耳は三輪君の心臓の音だけを捉えている。
風の冷たさなんてもうどうでもいい。素肌にひやりと沁みるシーツなんてどうでもいい。三輪君だけがいればそれでいい。
 夜はどんどん沈んでいく。月明かりなんて拝む暇もなく、三輪君の中に溺れていく。

Lost stars