僕等の距離
腕を掴まれる。僕はもう慣れてしまったのでいつものように痛いですよ、とだけ言う。尾形さんは痛いのか、と繰り返して離してくれる。どうにも力加減の下手な人である。
しかしそもそも考えるに尾形さんが僕の腕なんぞ掴まなければ良いと思うのだが、はて、どうして尾形さんは僕の腕を掴むのだろう。僕は何処にも行かないのに。
「尾形さんは、」
聞こうとした、はずだった。けれども口から出て行ったのは違う言葉で。
「友人がいたことがないんですか」
そんな見たら分かること、聞く必要もないのに。
尾形さんは思うことがない訳ではないようだったが、諸々突っ込むことはせずに素直に返答を返すことにしたらしい。これが素直かどうかはさておき。
「そういうセンセーはいたことがあるのか」
「ありますよ」
即答したら尾形さんは目をぎゅっと縦に引き絞った。いつ見ても思うけれど、これどうやってやっているんだろうなあ。いや、本人が意識的にやっている訳じゃあないんだろうけれど。
「…何ですか、その顔」
流石にこんなに露骨な顔をされるとは思っていなかったので素直な感想が出てしまう。
「僕に友人がいたら可笑しいですか」
前に友人くらいいるという話をしたようなしていないような、尾形さん本人にはしていなかったような気がするのでまあ、これは僕の怠慢としてやるとしよう。普通分かりそうなものだが、そこは尾形さんなので過度な期待はしないでおく。
「…いや」
暫くして、尾形さんはゆるゆると首を振った。
「俺だけじゃなかったのかと思ってな」
「そもそも尾形さんを友人だと思ったことはありませんけどね」
「そうだな」
今度は縦に動く首。表情があまり変化しないからか、尾形さんの仕草は存外素直だ。
「センセーは俺のセンセーだもんな」
その言葉には、何を今更、と目を瞬かせる。
「はい」
そして、僕もまた、頷く。
「僕は尾形さんの先生ですよ」
「センセー」
「はい。なんですか」
「次は痛くならないように注意する」
「そうですか。頑張ってくださいね」
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