無性にその喉に噛みつきたくなった



 恐らく自分が殺そうと思ったらその一瞬あとにはこの男は死んでいるんだろうな、という推測くらい、尾形にだって出来た。知識諸々はさておいても、大抵の物事は尾形の方は上回っていたし、力比べで伊佐早に負けることなんてないだろう。知恵比べになってやっと伊佐早にも分が見えてくるくらいで、基本的に人を殺すように出来ていないこの医者は、人を殺すように出来ている尾形に敵うことはないのだろう。
 そんな人間が、結局どうして此処まで死なずについて来てしまったのか。
 利用価値を考えたから、それはその通りだ。切り札として使えるから、それもその通りだ。でも、尾形は自分が、価値があるからと言って手元に残しておけるような人間ではないことを知っている。どれほど計算が出来ても推測が、予測が出来ても、結局自分の好きなようにしてしまう。
 だから、今、伊佐早が生きているのは。
 殺したいと、そう思うことがなかったからなのだ。
 伊佐早は杉元の怪我を見ている。医者として技量があるのだからそれを生かさなければ、と言うだろうことは想像がつく。それでも杉元と一緒にいられるのは少々、気に食わない。
―――誰にも渡したくない、誰かの医者でなんかいて欲しくない、俺の、俺だけのセンセーでいれば良い。
そんな、ことを思うのに。
「センセー」
「どうしましたか、尾形さん。何処か怪我しました? あ、そういえば頭ぶつけてましたよね。たんこぶでも出来ましたか? 痛み止めはいつものところですよ」
「…いや、そうじゃない」
「そうでしたか。痛くないなら良いです」
あまりにその中に自分が当たり前のように組み込まれていることを確認してしまったら、もうそれ以上言葉は出なくて。
―――俺だけの、
 伸ばそうとした手はぴくりと動いただけで伊佐早には見られていなかったけれど、此方を見ている杉元の目にはしっかりと映っていたらしく呆れたような顔をされた。



箱庭006 @taitorubot


















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