あなたも悲しかったの?(Cappuccino Biscotti)
いつもしている指輪が外されていたのであれ、と思ったのを覚えている。
「指輪、どうしたの」
「………君がまさかこういうことを聞いてくるとは思わなかった」
「人間観察は趣味だから」
指輪を外すことの意味は分かっている。でも、彼に限って何故、と思う反面、まあそうなるだろうな、という納得もあった。すべて遠いところだったけれど。
「別れた」
彼は自分の指を撫でる。
「離婚だ」
私は何を言って良いのか分からない。最適解は知っている、けれどもすべて見通している彼に何を言うべきなのか。そういうことが向かない私から中身のこもっていない言葉を投げかけられても彼にとって何も変わりはしないだろう。或いは投げかけるという行為こそ意味があるのだろうか。
考えた結果、私はぽつりと呟いた。
「悲しい?」
「…まあ」
「そうなの。私には悲しいっていうのはよく分からない。でも貴方を観察していたら分かるようになるのかしら」
「…どうだろうな」
額に手を当てる。感情を抑える行動。
「君は真人間になりたくないと言ったんだろう」
「真人間のふりをしたいとは思っているわ」
だから本当は貴方にとびっきりの言葉をあげたいのにね、と言ったらそんなものはお断りだ、と言われた。
彼の持ち込んだコーヒーの匂いがやけに鼻についた。
*
エフェメラ @ephemera_odai
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