あなたの瞳に映るぼく



 アーロン・ホッチナーがこの部屋を訪れることを、実のところ嫌だと思ったことはなかった。だからと言って好ましいと思っている訳でもない。好ましいと思っているのはそれが抑止力足り得ると思っているセナ・堀越の担当の人間だけだった。残念なことにセナの中身はそう簡単に出来ていないようだった。それはセナもホッチナーも分かっていること。
「でも追い返そうとも思わないのよね」
唐突に語り始めたセナにホッチナーはいつもの通りに眉間に皺を刻むだけ。
「まるで私が真人間みたいに見えるから」
真人間の言葉の定義を今からし始めるつもりもなかった。
「貴方はどう思うの、貴方の行動について」
「少なくとも嫌ってはいない」
そういう君はどうなんだ、とホッチナーは小さく問う。答えは用意していない。聞かれることは分かりきっていたのに。
「嫌いじゃない」
「嫌か?」
「嫌じゃない」
曖昧な言葉。
「私は、」
 声が震える。変わることが怖い。きっと変われないだろうに、セナはそんなことを恐れている。
「貴方に抱かれたら変われる?」
「…セックス程度で人間の根本を変えられるなら、今頃すべての人が変貌を遂げ続けているだろう」
「―――それもそうね」
夢の瓦解のような気がした。きっと世界には何かしら魔法のようなものがあって、いつかセナはその魔法で切り替わるのだと、そんな夢を何処かでまだ抱いていたのだと、突き付けられた気分だった。
「ごめんなさい、変なことを言って」
「そのうち変だと思わなくなったらまた言ってくれ」
「…はは、」
 思わず笑う。
「今のはすごく口説いてるみたいに聞こえた」
「かもしれないな」
「変人を見過ぎて好みが可笑しくなったの?」
「そうかもしれない」
「ジャックは困るんじゃないの」
「ジャックが困ってくれるような年数で君は変わるのか?」
「…無理ね」
「まあ、俺が死ぬ前に一つ頼む」
「あはは、だめ、もうこれは次の新刊のネタにするしかないわ」
「…それは好きにしてくれ」
何でもないことのようにホッチナーが言うので、やっぱりセナはもう一度笑うしかなかった。
 笑うしか出来なかった。



@s_k_netatyou


















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