木ノ葉隠れの里、里本部の火影室にて。もうそろそろなまえとマダラに与える役目が定まりそうだということで二人は呼び出されていた。
六代目火影であるカカシ、そしてなまえとマダラが向き合っている。大戦を主導したマダラが人目につくことはあってはならず、人払いは徹底して行われていた。しかし外から覗かれる恐れもあるためマダラは外套に身を包んだうえ、フードを目深にかぶっていた。
カカシの口から伝えられたのは主に三つだ。一つはなまえとマダラに渡す任務のおおよその方向性。もう一つは、そのやり取りは主に伝書を用いて行われること。そして最後は、里から招集をかけた際は可能な限り速やかに応じること。
なまえはその三つ全てを承諾した。マダラはあまり興味がなさそうに窓の外を見ていた。話すのは基本的になまえに委ねているのだ。なまえがよければそれでいい。余程の不利益に繋がることがない限りマダラは口を挟まなかった。
次回以降の伝達も書面で行うことをカカシが話していた時、ドアの向こうから足音と話し声が迫ってくることに三人は気付いた。
「この声は……」
カカシはまずい、という顔をしてなまえとマダラに窓から出るよう催促する。窓枠を越えて二人が身を屈めたのと同時にドアが強く開けられた。事情を知っているらしい暗部の人間が廊下を見張っていたはずなのに、一体誰が強引に突破してくるのか。なまえは考えるが、もとより知り合いのほうが少ないためわかるはずがなかった。
中から聞こえてくる女性の声。それに対してカカシが「少し空気の入れ替えを……」と誤魔化しているのが聞こえた。窓がゆっくりと閉じ、声が遮断される。屈んだまま移動を始めようとした時、マダラがぼそりと零した。
「たしか、綱手だったか……」
その声に、なまえは首だけを向ける。
「ツナデ?」
「……柱間の孫娘だ」
なまえの目が見開かれる。マダラはすっと視線を落として移動を始めた。その名をあえてなまえに教えた意図は、果たして。
「…………」
少しの間の後、なまえは立ち上がった。部屋の中の綱手がこちらを向く。それに気付いたカカシも振り向いた。その時の顔を彼の友人が見ていれば、腹を痛めるほど大笑いしたに違いない。
なまえは窓を開けて再び中へと入る。そして、絶望しているカカシの横を通り過ぎて綱手のもとへと一直線に向かった。
「なんだカカシ。女と密会してたのか? それならそうと……」
「綱手さん……とおっしゃるのですね」
なまえはカカシをおちょくろうとした綱手の手を取り、両手で優しく包みながら眼前に顔を近付けた。
「柱間さんとミトさんのお孫さん……。たしかに、お二人の面影が感じられます」
なまえは瞳を輝かせながらも、慈しむように綱手を見つめた。見知らぬ女に突然迫られた綱手はたじろいで一歩後退する。
「なんだお前。気安く触れるな!」
「綱手さんはおいくつになるのですか? おじいさまやおばあさまからはたいそうかわいがられたでしょう。よければお話を聞かせてもらえませんか?」
手を振り払われようともなまえは動じない。ただ目の前の愛おしむべき存在ににこにこと笑顔で語りかけている。
「おい、カカシ。お前の女……ずいぶん変わってるな」
綱手はどうにかしろと言わんばかりにカカシを見た。
「……まず、私の女ではありません……」
カカシは頭を抱えるようにして溜め息をつく。どう説明しようともややこしいことになるのは間違いない。降りかかった新たな厄介事に、勘弁してくれとカカシは内心で呟いた。