途中で即効性の止血薬を首筋に差しながら、ただがむしゃらに走っている感じだった。
校内や人の多い所に逃げ込んで怪我人を出す訳にはいかない。かと言って、戦うというには非常に分が悪い。

手騎士と詠唱騎士の資格を持ってはいるが、むつきのが呼び出す悪魔は地の王…つまり彼の眷属ばかり。召喚しても直ぐ彼に平伏してしまうだろう。
かと言って詠唱で倒そうにも、致死節に当たる章なんて分からない。むしろ詠唱なんて効かないかもしれない。
聖水も、CCC濃度の聖水はさっきのが最後で、後は下級悪魔しか倒せないようなランクの物しか残っていない。
絶望的な状況だった。

(詠唱騎士じゃなくて、竜騎士か騎士の資格を取っておけば良かった…)

と後悔しても意味は無い。
こうしている間にも、アマイモンの気配が近付いてくる。

どうしよう。と無い血の気が更に引いた時、奇跡のような出来事が起こった。
前方をシュラが歩いていたのだ。

「シュラさんっ!!!」

藁にも縋る思いでシュラの名を呼ぶと、ゆっくりとむつきの方に向き直った。

「うにゃ。むつきじゃ…って何だその傷!」
「助けて下さい!いきなりアマイモンに襲われて…!!」

と噛まれたであろう首筋周辺を真っ赤に染め上げ、血の気が引いている顔で告げるむつきを見て、シュラは(そんな馬鹿な)と思ったが、生前自身の師であった獅郎が「娘はどうやら悪魔を惹き付ける体質らしい」と話をしていたのを思い出し、直ぐ手を引いて自分の後ろに隠した。同時にアマイモンが二人の前に姿を現す。

「呆気なく見付かって、つまらないですね。…ん?」
「細かい事は後で聞かせてもらう。私じゃ足止めくらいしか出来ないが、その間にむつきは逃げな」
「すいません…!」
「もう鬼ごっこはしませんよ。今度こそキミを食べます」
「そうは「そうはさせませんよ!」」
「「「!!?」」」

シュラが胸元から魔剣を出し臨戦態勢に入った途端、空から声が降ってきた。
全員が上を向く前に、ピンクの固まりがアマイモンと二人の間に軽々と着地する。

「大丈夫ですかむつき」
「!お前…」
「兄上、何故」
「兄、上…?」

兄上と呼ばれたメフィストは、ニヤリと笑う。
むつきだけは、二人が兄弟だと知って一瞬時が止まってしまった。
言われてみれば、二人の顔は似ている。

「アマイモン。お前、私のお気…部下に何をしているのですか」
(今完全に"お気に入り"って言いかけたな)
「美味しそうな匂いを放っていたので食べようと思ってたのですが、兄上の物だったのですか。失礼しました」
「そんな謝り方で私が赦すと思うなよ。…シュラ、貴女はむつきを連れて医務室に行って下さい。それと、むつきにはコレを」

メフィストはアマイモンに向かい合ったまま、ポイッとむつきの手元に放り投げた。
両手で受け取ったそれは、

「…バングル?」
「本当は渡したくなかったのですが、致し方ありません。それを肌身離さず付けて下さい。そうすればもう貴女が悪魔に悩まされる事はありません。
…それでは、また後ほど」

一方的に話を付けたメフィストが呪文のような言葉を発すると、辺りがピンクの煙に包まれた。
アマイモンの悲鳴のような声が聞こえると同時に煙が薄くなっていき、すっかり晴れた頃には二人の姿はなくなっていた。

「・・・大丈夫か?行くぞ」
「はい…」

その後、私の前にアマイモンが現れる事はなく、バングルを付けた事によって、悪魔も寄り付かなくなった。



- 11 -



dream

top
ALICE+