(なんでなんでなんで)
荒い息、バクバクと脈打つ心臓。
身体は突然の衝撃で冷え切って、傷口の部分だけがやけに熱く感じられた。
走って走って走って走る。
彼はきっと鬼ごっこでもしているつもりなのだろう。
走り出してから暫く経つが、近付いてくる気配はない。
このまま興味が無くなってくれれば良いのに、周りに響く彼の笑い声がそれを否定する。
(なんでなんでなんで)
ずっとそればかりが浮かぶ。
事の発端はとても小さな事なのに、今では大きな恐怖の原因としてむつきの脳を支配していた。
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任務の帰りだった。
天気も良くて星座占いも一位で比較的任務も楽に終わって、朝から気分が良かった。
この後は何をしようか、なんてのんびり考えながら街を歩いていたむつきの目の前に突然一人の少年が現れた。
全身黒の服に身を包んでドクロのアクセサリーが目立つ、ビジュアル系と言えば良いのだろうか。
そんな少年の無表情な顔は、誰かに似ていた。
身近な人に似ているような…。
突然現れた事にビックリして固まってしまったのだが、邪魔だろうと退く為にむつきが身体を動かすと、少年もまた同じ方向へ動かした。
こんな事は良くある事だと、むつきは冷静に考え一歩引いてから道を開けた。
しかし、少年はむつきを追い越していく気配がなく、むしろ一歩前に出てむつきの顔に自分の顔をずいっと近付け、すんすんと鼻をならしはじめる。
これにはむつきも焦った。
「あ、あの…」
「…見つけました」
「え?」
「兄上の部屋で薫っていた美味しそうな匂いの正体は、貴女だったんですね」
「あの、どういう…」
その後もぶつぶつと呟く彼に全然付いていけない。
アニウエって?美味しそうな匂いって何の事?と質問をする前に、少年はいきなりむつきの首筋に噛みついてきた。
「っ!?」
いきなり躊躇なく首筋に、しかも噛み千切ろうとしていたのか、力強く噛まれたむつきは混乱した。
だが思考とは裏腹に身体は自然に少年を突き放し距離を取っていた。
「あぁ、何で逃げてしまうんですか。まだ一口も食べてないのに」
「い、いきなり何するんですか!!?」
「何って、美味しそうだから食べようと」
ドクドクと血が流れている首筋を抑えながら、むつきは少年が何食わぬ顔で言った台詞に言葉を失った。
もしかしてカニバリズムか?でもカニバリズムは死んだ人間の肉を食べるものだったはず。
それに美味しそうだからって、いきなり人を食べようとは思わないだろう。というか美味しそうって何だ。
「貴方…人じゃなくて悪魔ですか?」
何でか、一応悪魔かどうかを聞いてみよう。と思った。
簡単に肯定する訳がないだろうけど、これで人だと言われれば謝って取り敢えず逃げよう。と、正常に動いていない脳で考えた。
が、少年の発した言葉は意外なものだった。
「はい、ボクは悪魔です。名前はアマイモンと言います」
「あ、アマイモン??!」
アマイモンって、地の王のあのアマイモン?そんな、何で此処に?この街は悪魔が入ってこられない様な安全な場所じゃなかったのか?と色々考えている間に、アマイモンがむつきとの距離を縮めていく。
むつきは恐怖から、咄嗟にウエストポーチの中から今日の任務で余ったCCC濃度の聖水の入った手榴弾をアマイモンに投げつけた。
ぶつかった事により容器が爆発し中から聖水が飛び出し、アマイモンの身体に直接降りかかる。
「あ"あ"ぁぁあ"!!!」
聖水に充てられたアマイモンが怯み手で顔を覆った隙に、むつきは彼から離れる為に駆け出した。
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