先ほどまで見えていた姿は一瞬にして消えた。消えたと認識した刹那に、再び剣を振り下ろす形で萌苗は一護の前に現れた。それは至極近距離に位置しており避ける事は困難で、咄嗟に攻撃を受け止めるのが精一杯だった。
それほどまでに萌苗の移動速度が速いのか、それともそう錯覚させてしまうほどに一護の思考が乱れているのかは、自身ですら分からない。
受け止める直前に、一護は同じ量の霊圧を剣に纏わせた。互いの霊圧により威力は相殺され怪我は免れたが、それによって発生した風圧には耐えられずに互いに弾け飛ぶ。
着地する際に萌苗よりも早く体勢を立て直した一護だったが、中味は違う人物だと分かっていながらも姿が萌苗なせいで、どこか踏ん切りが付かずに反撃に出られなかった。それを悟った萌苗はニヤリと笑みを零すと、間髪入れず攻撃を仕掛けようと再び構えると一護に向かっていく。
見た事のある、或いは実際に受けた事のある攻撃の嵐。だがその技を持っている本人より威力の弱くなっているそれは、自身の月牙で十分対応出来るものだった。しかし疲労は着実に一護にのし掛かり、小さな傷を増やしていく。
萌苗も萌苗で、一護にことごとく攻撃をかわされ受けきられる事に、次第に苛立ちを感じていた。
「…っウザいなぁ!さっさと"この子"のために…殺られちゃえば!?」
「俺は……俺は、みんなを助けるまで…やられる訳にはいかないんだよ!!」
「は!そんなの綺麗にしか過ぎないわね!!」
「そんな事無ぇ!」
「ふん、良いわ。…遊びは、終わりよ」
そういうと、萌苗は再び一護から距離を取り、静かに剣を地面に付けるように腕の力を抜いた。
今までの攻防を遊びと称し、一護と距離を取ったうえで落ち着きを見せ、さらに徐々に増していく霊圧…。
それがこれから何を起こすための行為か直感的に察した一護は、固く剣を握りしめ、阻止すべく萌苗に向かって突進を仕掛けていく。
「拭え」
「 涙拭娼婦」
萌苗の言葉を合図に、霊圧が上がる。
急に上がった霊圧は周りの空気も変化させ、萌苗を覆い隠すように竜巻が発生した。周りに居た三人は吸い寄せられてしまいそうになる身体を踏ん張らせ、己の身を固く守る。
徐々に和らいでいく風、それに伴って視界が晴れていき、萌苗の姿も現れ始めた。
「「「!!!」」」
風が完全に止む。
それに伴い姿を表した萌苗の姿に、この場に居た全員の表情が驚愕の色に変わる。
斬魄刀を解放した萌苗の姿は、人と言うには歪み過ぎている。だが、辛うじて人の形を留めようとしている……。そんなアンバランスな形をして、三人の前に佇んでいたのだから。
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