スーツを着た中年の男は歩いていた。額に手を当てながら、フラフラとした足取りで。その表情は困った以外の何者でもない。
「ああ…頭がいたい…。一体どうなってるんだ…、電車も動いてないし…これじゃ会社にも行けんし家にも…」
一人言をブツブツ言いながら角を曲がると、三人のが此方を歩いてくるのが見えた。
男は三人が自分達の着用している物とは異なった服装や装飾をしているにも関わらず、三人を見た途端に安堵し声を掛ける。
「ああ…あんた…、よかった起きてる人が居て。あんた、これどうなってるか何か知らんか…」
「…近付くな」
互いに距離を縮めながらも、静かに静止の声を掛けたのは、先頭を歩いていた男…藍染だった。
藍染が何を言ってるか判らないままに、否、理解する間もなく男の身体に異変が起きた。
「…霊圧知覚を持たぬ人間は私の力を感じないが、霊体そのものが私の力に耐えられないのだ」
男の身体が、まるで巨大な刃物で斬られたかのように、頭半分から左脇腹まで綺麗に失くなってしまったのだ。
失くなった箇所は肉が塞がる事無く、地面に血が滴り落ち、男はそのまま命を落とすと同時に堅い地に伏した。
その男の他にも、藍染達の歩いた後には屍と化した人々が転々と転がっている。
そのまま歩き続けると、前方の道からまた人影が現れた。
「あら、向こうの方にも起きてる子いてますね」
「…ああ、ウルキオラの眼で観た覚えがある。
あれは、黒崎一護の仲間だよ。そして萌苗の旧友でもある」
そうだね。と確認を取ると、萌苗は此方に気付く事なくもう一人の友を背負って歩くたつきの姿を見ながら、ゆっくりと頷いた。
たつきの後ろを歩いているのは、やはり友を背負っている浅野だった。
「…有沢たつき……」
「そうなんですか。どうしはります?」
「…行こう。私の力を完璧にする為に」
そういうと、瞬歩を用いて三人は会話をしていたたつき達の元へ素早く近付いた。
途端にたつき達の周りは藍染の霊圧に押され、景色がぼやけて見え、身体から出る汗が昇っていく。
「……………!?」
「…な…何だよ…これ…っ!?…あ……有沢…っ、大丈夫か…!?」
「うっさい…あんたに心配されなくても…」
急な環境の変化にパニックを起こしながらも、互いの無事を確認する。
そんな二人の目の前まで、藍染、市丸、萌苗の三人は迫っていた。
「…なに……あいつら…?」
「…っ!…あれ…、萌苗か…!?」
藍染がたつきを見下ろすと、更に霊圧に押されたたつきは、片膝から地面に崩れた。
「有沢…っ」
「――大したものだ。ここまで近付いても存在を保っていられるとは」
「あんた……だれ…」
「…黒崎一護は必ずここへ現れるだろう、新たな力を携えて。私はその力を更に完璧へと近付けたい。君達はその助けになるだろう」
雄弁に語りながら、藍染は息を荒げているたつきに剣を向ける。それに危機感を感じたたつきは、振り向く事なく後ろに居る浅野に叫んだ。
「逃げて浅野!!」
「え…」
「早くしろよッ!!あんたがここに居てなんかできんのかよ!!」
そう叫んだたつきの意図を汲み取ったのか、浅野は口をきつく結ぶとたつきを置いて全速力で逃げていった。
「追う必要は無い」
浅野を眼で追う市丸を気配で感じ取った藍染は、たつきを見下ろしたまま片手を上げる。
「まずは、こちらからだ」
迫りくる死の恐怖から立ち上がる事も、藍染から眼を逸らす事も出来ないたつきの脳は、冷静さを取り戻そうと必死で思考を働かせようとしていた。
―どうしようどうしよう体動かないどうしよう
どうしたら――――
何も思い付かないまま時間だけが過ぎていき、藍染が自分に近付いてきている。
そんな時、たつきの後ろにもう一つの影が迫っていた…。
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