三人は断界へ足を踏み入れた。
混沌という言葉がしっくりくるこの場は、一歩動く度に一面に敷かれた骨同士が掠れ合う軽い音がする。時々層の薄い骨もあるのか砕ける音もするが、気にする者は此処には居ない。

「…断界か。…懐かしく感じるな、随分と」
「ほんまですね」

懐かしさを噛み締めるように会話をする二人と、何を言うでもなく二人を眺める萌苗の耳に、汽車が走る音と人の低い声を混ぜ合わせたような、奇妙な音が届く。
後ろを振り向くと、これまた丸くて奇妙な物体が高速で此方に向かってきていた。

「…拘突か」
「あかんあかん、行きましょ藍染隊長」

厄介な物に出くわしたという口振りで藍染に声を掛ける市丸。だが、藍染は耳を貸す事もなく、前を見据え続ける。

「藍染隊長、早よ行きましょうって。あれは霊圧の側やのうて理の側の存在やないですか。霊圧でどうこうできるモンちゃいますよ」

だから関わる道理は無い。暗にそう言っているにも関わらず、藍染はずっと拘突を見続ける。
そんな藍染に善からぬ予感を感じた市丸は、静かに彼の名前を呟いた。

「…藍染隊長」

すると藍染は市丸に少しだけ視線を向けると不敵な笑みを浮かべる。刹那、指一本触れてもいないのに、突如として拘突の身体が盛大に吹き飛ぶ。
市丸は急に来た爆風に耐えようと、咄嗟に片腕で近くに居た萌苗を庇うように抱き締め、もう片腕で自分の顔に構えた。
砕け落ちていく肉片や骨など、藍染は全く気にする事はなかった。

「…何を怖れる、ギン。理とは、理に縋らねば生きて行けぬ者の為にあるのだ」
「さあ、行こうか」
「理の涯へ」

そう言って穿界門の扉が開くと同時に、藍染は断界の外へ足を踏み入れた。後に続いて市丸、萌苗と外に出ると、辺りはコンクリートで出来た街ではなく、緑に囲まれた古ぼけた小屋のある場所だった。

「…空座町はあっちか。少し逸れたな」
「ボク等のせいみたいに言わんといてくれます。藍染隊長がやんちゃしはったから軸がズレたんですよ」

からかいを含みながらも藍染を咎める言葉を放つ市丸を、藍染は少しの間見たが、それ以上は何の反応も示さなかった。

「そうだな、済まなかった。少し歩こうか」

と言ってから、暫くは誰も何も話す事無く、周りの霊圧を感じながら空座町を目指し歩いていた。
そうして、ただの土だった地面から急に現れた灰色の世界。
ついに、三人は空座町に着いてしまったのだ。

「…成程、尸魂界には不似合いな景色だ」

「それも―――見納めか」




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