切っ先が抜かれると同時に、意識を失ったグリムジョーの身体が傾き、重量に従い地面に落ちそうになる。だが、一護は素早くグリムジョーの手首を掴み、それを阻止した。
その顔は、終わったんだという安堵、これで良かったのかという疑問…それらが混ざり複雑な表情を作っていた。その気持ちを現すように、力を解除した際の仮面が小さな欠片となって砕け落ちていく。

一護は、そのままグリムジョーの身体ごとゆっくり地面に降りて彼の身体を寝かせると、自身は三人の元へ勢い良く飛び上がった。
こちらへ来る一護を確認しながら織姫は三天帰盾を解くと、冷や汗を浮かべながら一護を見、声を発して良いものか迷いながらも口を開く。

「…く……黒…」
「…ケガ…。…ケガ…してねえか?…井上」

一護が自分だけに向けた言葉と笑顔。その事実に織姫は一瞬目を見開いたが、徐々にその瞳に安心の色が宿っていった。

(…よかった……いつもの…黒崎くんだ…)
「…うん…。…ありがとう…」
(あ、また…)

そう、声を震わせ述べる織姫を、一護は優しい瞳で見ている。それは先刻のように、二人だけの空間を作り出しているようだ。
そんな光景を見ている萌苗は、胸が締め付けられる感覚を覚えた。

優しさをまとった一護の笑顔を見なくなったのは、いつだった?
いつから、一護は自分に偽りの笑顔を向けるようになっただろう?
過去を遡ってみるが、思い出せない。それだけ萌苗の中で、一護との思い出が遠いものになっている事が分かると、萌苗は強い力で拳を握った。
そんな時…。

「いちごーーーー!!!」
「ウボア!!!」

ネルが一護の下腹部目掛け、突然崖からダイブした。相変わらずの力で一護の身体が後ろに動いたが、なんとか踏ん張る。
そして一護は勢い良く冷や汗を垂らしながら、ネルの身体をガシッと掴み、焦りの声を上げた。

「ばっ…バカ野郎!!!何考えてんだ!空中だぞ!!落ちたら死ぬんだぞっ!!!」
「…よかったっス…。一護が死ななくて…よかったっス……!」

下腹部に顔を押し付けたまま、弱々しく、でも強い声でネルが本音を漏らす。その姿に一護は、不謹慎ながら思わず頬を緩め、感謝の意も込めてネルの頭を撫でた。

「…ああ…。ありがとな……ネル」

次いで、一護はネルを抱えたまま、織姫の方を向いた。

「井上も、ケガがなくて良かった」
「え…えへへ!あたしホラ!もともと頑丈だから!小っちゃい頃からカゼとかもあんま…り…?」

突然一護に話掛けられた織姫は、焦りながらも話をし出す。しかし一護は織姫の話もそこそこに彼女の腰に手を沿えると、そのまま自身の肩に担ぎ上げた。
これには抱き上げられた織姫自身も、端から見ていた萌苗も驚く他ない。
萌苗に至ってはショックの方が大きく、目を見開いたまま動くことが出来ないでいる。

「っ!」
「ちょっ…ちょっと黒崎くん!?何して…」
「何って下りるんだよ。こんなガレキだらけじゃ下り階段探すより、抱えて降りた方が早いだろ?」
「でっ…でも…」
「何だよ?何かマズいのか?」
「お…重いよ…」
「あー、気にすんな。思ったほどじゃねえよ」

一護に触れられるのは嬉しいが、担ぎ上げられるのは自身が重いのではないかと心配になってしまうため話は別だ。
そういう意味を込めて、恥ずかしさから顔を隠しながら本音を漏らす。…抱き上げられから言葉を発したので、今更な気もするが。

相変わらずそういう類には鈍い一護は、気にする事もなく、こちらも本音を口にした。話が噛み合っていない気もするが、そこはご愛嬌だ。
そんな一護に喝を入れるべく、小さな拳が目一杯の力で一護の急所目掛け飛んできた。

「ほあ!!!」

思わぬ衝撃を受けた一護の、全身から大量の冷や汗が流れてくる。
一護は、喝を入れた本人であるネルに少々の怨みを込めた自然を向けた。

「…て…っ、てめえ…!」
「レデーにそんな言い方しちゃダメっス!レデーにはレデーなりの言い方ってもんがあるっス!たとえ重くても、そこは軽いと答えるべきっス!たとえ重くても!!」
「や…やめてネルちゃん…。だんだん悲しくなってきた…」




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