弟とまもるものと


わたしと工藤さん夫婦が家族になってから三か月。
両親と兄のお葬式は工藤夫妻のおかげで内々にではあったが無事に終わり、身も心も整理がつき、わたしは正式に工藤家の養子となった。
でも、まだ彼らをお父さん、お母さんとは呼べていない。



「紗良!!」

工藤さんが廊下の向こうから息を切らせて走ってきた。その後から「院内で走らないでください!」という怖い声が聞こえてきたのはスルーする。

「工藤さん、」
「容体は…」

「工藤さんの旦那様ですね、奥様は今分娩室に。まもなくかと思いますが、立ち会われますか?」

一人分娩室の前で待つわたしを気遣ってくれた看護師さんが息を切らせている工藤さんにそう説明した。
今日、工藤さんが打ち合わせで家を空けていた際に急に産気づいた有希子さんの容体に動転したわたしはお隣の阿笠博士に助けを乞い、救急車を呼んでもらったのだ。
救急車で有希子さんと一緒に病院へ向かう中、博士が工藤さんに連絡をしてくれたらしい。


「、ええ。紗良も一緒にくるかい?」

こくり。いくら看護師さんがそばにいたとしても一人は心細いのだ。

「ではこちらへ。」


看護師さんに案内され、消毒をし着替えて分娩室に入れば苦しそうな顔で耐えるような声を上げている有希子さんがいた。

「大丈夫、私も紗良もそばにいるからね有希子。」
「有希子さん、」
「っう、あな、たも紗良…ちゃんもありがっうう」
「大丈夫だ、もう少し頑張れっ」
「有希子さん、が、がんばってっ」

その時、一際大きな声を上げた有希子さんの後に大きな鳴き声が上がった。



「よくがんばりましたね、元気な男の子ですよ!」

そう言いながら小さなものが有希子さんの手に渡された。その子を見てほほ笑むその姿はとても綺麗だ…。


「ふふっ見てあなた。かわいい…私たちの二人目の子ども、新一よ。工藤新一。」
「ああ、よく頑張ったね。有希子も新一も。」
「紗良ちゃんも、こっちに来て新一を抱っこしてあげて。」

恐る恐る有希子さんが横になっているベッドに近づけば、その子を抱き上げていた工藤さんがわたしにも抱かせてくれた。


ちいさい。


少しでも力を入れれば壊してしましそうなその子に体が強張るのがわかる。くしゃくしゃの小さな顔。まだ二人の面影はわからないけど確かにこの二人の赤ちゃんでわたしの、おとうと。工藤新一。わたしの新しいもう一人の家族。
そう思うと不確かだった弟という存在が確かなものに思えて、とてつもなく大切なものに思えてきた。


「しんいち…わたしのおとうと…弟…」
「ええそうよ、あなたの弟。一緒にたくさん遊んであげてね、お姉ちゃん。」


「うん…お父さん、お母さん…ありがとう。しんいち…これからはお姉ちゃんがまもってあげるからね。」





その時、わたしには守るべき新しい《かぞく》ができた。





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