家族とかぞくと

『優作君…うちの娘は可愛いだろ?』


『は…?いや、確かに可愛らしいお嬢さんですが…』

『そうだろうそうだろう!娘も息子も俺の自慢だ!!もちろん嫁さんだがな!』

『なにが言いたいんですか誠治さん。もうお腹一杯なので惚気は結構ですよ。』

『…もし俺たちに何かあったら子どもたちを頼む』

『え…』

『なに、仮定の話だ!
俺も刑事なんて仕事してるとな、恨みを買いやすいんだよ。わかるだろ?お恥ずかしいながら俺は実家とは家出同然で縁切ってるし、ケイトの親兄弟はアメリカ。さすがに中学生までは環境変えずに日本で育ててやりたいんだ。万が一俺らに何かあった時、お前なら安心できるからな。』

新婚のお前に頼むようなことじゃないけどな!
そう暗い空気を吹き飛ばすように笑った彼は、今思えばどこか覚悟を決めたような目をしていた気がする。
それから数か月、彼の死を知らされた…。






「そんなこと、パパが言ってたんだ…。」
「ああ、だからね君のお母さんのご家族とも電話でだけど話し合わせてもらって、君は私たちが引き取ることになったんだ。」

工藤さんからそんな話を聞いて、散々泣いて止まったはずの涙がこぼれてきそうだ。

「だから、いきなりは難しいかもしれない。君のペースでいいからゆっくりと家族になっていかないかい?」

三度目のお誘い。
まだ、ためらいはあるけれど…選んでもいいのだろうか。


「…うん。

…よろし、く…おねがい…しま、す」


「!ああ、よろしくね、紗良」
「ええ!今日から一緒に暮らせるなんて!!紗良ちゃん、一緒にたくさん思い出作っていきましょうね!!」


さっきまでとは違う、家族という情の入った呼び方にこらえていた涙がまたあふれ出してきた。

「っ、ん…ん」
「え、どうしたの紗良ちゃん!どこか痛いの?調子悪いの?!」
「ふぇ、あ…」

そうではない、違うと、違うんだと口を開いた瞬間。堰がきれたように声を出して泣きだした。言いたいことも声にならないで嗚咽となる。
少し前に工藤さんに泣きついた時とは違う。あの時とは違い冷静さが残っているからわかる。たぶんこれは安心したんだ。一気に家族と家が亡くなって帰る場所が無くなった。そこにこの優しい夫婦が自分に居場所をくれた。それに安心して、うれしくて、ポッカリと空いていた穴が少し埋まった気がしたのだ。


必死に泣き止もうと奮闘するも一向に止まらない涙に苦戦していると、その涙の意味に気付いたのか、さっきまで慌てていた有希子さんは優しい顔をしてわたしを抱きしめてくれた。工藤さんも頭を撫でてくれた。
そういえば両親も兄もよく私を抱きしめては頭を撫でてくれたと、思い出してまた涙があふれる。どっちも優しくて暖かい。


やっと涙が落ち着きかけてきたとき、お腹に当たる違和感に気付き視線を下にやれば、わたしを抱きしめていた有希子さんのお腹に違和感があった。

「?」

なんとなく、見覚えがある。
近所に住んでいたお姉さんもこんな風にお腹が膨れていたきがする。その時お姉さんは何と言っていただろうか。気付いたら涙は完全に止まっていた。


「…あかちゃん?」

そう、赤ちゃんがここにいるのだと笑顔で言っていた。



「あ!そうそう、この子にも紗良ちゃんを紹介しなくっちゃね!

さあ、あなたのお姉ちゃんよぉ。紗良ちゃん、ここにはあなたの弟がいるの。生まれたら一緒に遊んであげてね。」





わたしのおとうと…。わたしが…おねえちゃん…?






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