1 人参サテライツ誰か為の誰そ彼
田削彼(たそがれ)県
人口:推定約5000人
面積:約45平方km
人口面積共に日本で一番小さな県。
中国地方に位置し、北東西は岡山県に囲まれ、南は瀬戸内海を臨む。
豊かな自然、長閑な県民性、度を越したオーバーテクノロジーによって、
2020年現在にして352年目の鎖県状態が続く。
そのため、県民の生活は謎の部分が多い。
「はあ、ろくな情報が入ってないですね」
脳内コアのデータベースを叱るがごとく、コツンと自分の頭を叩きながら女は呟く。
歳の頃は二十歳くらいに見えるが、よく観察すれば身体の関節部分に不自然な節目があり、実際は人間ではない。
岡山県が極秘裏に開発した[殲滅/格闘]タイプの戦闘用ロボット。それが彼女、コジマだ。
あらゆる戦況にも柔軟に対処できるよう人格が設定されているが、いかんせんその人格に少々問題があった。
「ま、刃向かう奴がいたらボコッて黙らせればいいだけね。
せっかく岡山から逃げてきたんだし。ここを私の王国にしてあげよう!」
コジマは今、岡山と田削彼の県境に足を踏み入れている。
まだ日は高い時間である。それでも岡山側の県境警備隊程度はやり過ごすのは容易であったが、田削彼側の警備は未知数だ。
だが、そこは岡山の科学力の粋を極めたコジマ。
ステルスモードを発動し、悠々と今、県境を越えるのだった。
田削彼県に不法入県し2kmほど歩いたろうか。
「お、第一県民発見」
畑仕事をしている老人を確認した。
「やっほーお爺さんはじめマシーン!」
これはコジマの持ちネタ挨拶。寒いわ。多分このギャグでプラウザバックした人多数だ「うるせえ!」すかさずコジマからの非難の声。
ちょっと地の文にツッコミ入れるのやめてもらえますー?
最近はメタネタってだけで嫌う人もいるくらいだし、そのへん気を付けていきマシーン!
さて、コジマは未だステルスモードを解除していない。
にも関わらず挨拶なんてして意味があるのか?
ある。
というのは、彼女のステルスモードは機械やAIには抜群の効果を発揮するが、人間相手にはあまり意味を為さない。
このステルスモードの名称はキャロット。
平たく言えば、ニンジンになることよって機械の目を欺くシステムである。
そもそもニンジンというのはカロチンを多く含んでいるそうだが、シンシアという化合物質の含有量が、他の野菜を引き離すレベルで異常に多い事を知っている人は少ない。
このシンシア。毒素も栄養素も無い。まさに毒にも薬にもならない物質だが、科学者の間では特定の固有振動がある事で有名だ。
第二次大戦下ドイツの人体実験では、目隠し鼻栓をつけた被験者の前に、様々な野菜を順番に置いて何の野菜か当てる実験があった。
超能力実験の一環だったらしいその実験は、不思議な結果だけが残った。
ニンジンだけ正解率が軒並み高かったのである。
つまり、人間、もしくは生物は、シンシアの固有振動を無意識に感知し、ニンジンを認識しているのだ。
嘘だと思うなら、貴方もこのドイツと同じ実験をしてみるといい。かなりの確立でニンジンを当てられる筈だ。
ここまで書けばわかるように、コジマは音波によってシンシアの固有振動を発生させ、ステルスモードを成立させている。
言うのは簡単だが、未だに人工で生成することが叶わぬシンシア化合物を、固有振動のみとはいえ、このような形で利用するとは、コジマにはとんでもない技術が詰め込まれている証左である。
人間であれば、ニンジ…いや人間だわ、と目視で気付かれるが、
高度に発達した現代監視機器は、当然シンシアの固有振動もキャッチしてしまう。故にキャロットモードでキャロってるコジマなどは、
ふーん、ニンジンが歩いてるだけかー、と、スルーしてしまうのだ。
して、こう長々と説明している内に、コジマはズカズカと畑を踏み荒らしながら老人へと近付いていた。
その顔は攻撃的な笑みを浮かべ、右手には[マーダー・ライセンス]と呼ばれるナイフが。
マーダー・ライセンスというのは高周波ブレー……あ、いいから話進めろって?
うん、そうする。
「ああ、いかんお嬢さん!そんな畑を荒らしてると案山子にゲンコツされちゃうぞい?」
まるで子供に言い聞かすように言うお爺さん。
まあ、二十歳そこそこの見た目なら老人から見ればまだガキンチョも同じなのかも知れない。
「案山子ぃ〜?面白いお爺さんですこと。そもそもこの畑に案山子なんて見当たらな…」
その時。
ボゴォッ!畑の土がめくれ上がり、地中から現れた影!
「あんだァー?さっきからニンジンが歩いてると思ったら、機械人形じゃないっスか」
ポキポキと指を鳴らし、コジマを睨みつけるのは案山子。
案山子と呼ばれるメイドロボだった。
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