2 ミッシェルガン備前焼誰か為の誰そ彼
「おうオウおーう!よくも人様の畑を踏み荒らしてくれちゃったスねー?
ココなんて地面めちゃくちゃになってるじゃないスか!マジむかむかプリンっスよ!」
「いやソコあんたが登場した場所じゃん?」
「はあああああ?!人の所為にするつもりだー!
とんだ大馬鹿野郎っスねえ!許せねぇ…!」
「だったらどうするつもり?」
スチャリ、とマーダー・ライセンスを逆手持ちに構えるコジマ。
キィィィ…ィィン…!とその高周波ブレードから人体の可聴域を越えた音の振動が。既に臨戦態勢だ。
「これこれお前等。暴れるなら畑の外でやっとくれよ」
コジマ達とは30メートル程離れた納屋の下で、爺さんが茶を飲みながら嗜める。が、
「っっるせぇええッスじじい!私はこの生意気な砂利人形に実力の違いを見せつけてやらんと気が済まないんスよォ!」
老人の方に振り向いて暴言を吐く案山子メイド。愚かな。勝負は既に始まっているのだ。
コジマは素早く相手の懐に潜り、絶好の不意打ちのタイミング!案山子の喉元にマーダー・ライセンスを突き立て…
ぐにゃーっん
突き立てる前に、案山子は見もしないままマーダー・ライセンスを指で摘み折り曲げた。
「んなッ!?」
ベキョキョギギャバギン!高周波ブレードは形状の変化に耐えられず、自らの振動によってバラバラに砕け散った!
「はい、ゲンコツっスー!」
ゴツん!
あれ…?
コジマは不思議に思った。瞬時に視界が1メートルほど下がったのだ。
下を見ると身体が胸のあたりまで埋まっている。
頭には案山子の拳がある。
なるほど納得した。コジマはゲンコツを食らって畑にめり込んだのだ。
「んな馬鹿な!!?」
「おや?私のゲンコツで凹みもしないなんて、割りといい装甲っスね」
割りと、どころではない。
コジマの装甲は32枚のビーゼルファンを重ね合わせた複合金属を使用している。
ビーゼルファンとは備前焼から着想を得た最高硬度の素材だ。近年ではカーボン素材よりも上位として、車のボンネットやロード自転車のフレームに使われるケースも増えてきたので、ご存知の方も多いと思う。
性質としてはカーボンと似ていて、一度加工すると手を加えることが出来ないが、弾性に優れており、多少の折れ曲がりにも充分耐える。
ただし大変に高価なのと、重量はカーボンよりどうしても重くなるのでまだまだ一般に普及はしていない。
しかし、理論的には15枚重ねで核さえ耐え得る素材。シェルターとしての開発に各国躍起になっているのは事実である。
ただし加工は容易ではない。一枚のビーゼル素を熱し、薄く引き伸ばし遠心分離しながら成型。
素材の特性から、ある程度まで引き伸ばしても硬度に変化はない。これに着目して何枚も重ねることに成功すると、恐ろしいまでの剛体となるのだ。ちなみに市販のビーゼルファンは一枚重ねが主流。このあたりならまだ市民も手を出せる価格だが、五枚重ねくらいになると下手すると値段は億を越える。米軍戦闘機Bー339に使われているのもこの五枚重ねビーゼルファンだ。
いかにコジマの32枚重ビーゼルファンが規格外かお分かりいただけたと思う。
よし本筋に戻ろう。
「じゃあいいっス。もう一発ゲンコツして、今度は頭からスッポリしっぽり畑に埋めてやるっス!」
コジマは困惑していた。
自分は何だ?岡山が極秘裏に開発した世界最高の戦闘ロボットだ。
それが、それがこんなワケのわからないメイドロボに劣るというのか!?
認めるわけにはいかない。
コジマは自身のタイプを格闘から殲滅モードへとシフトした。もういい、田削彼県もろともコイツを吹き飛ばす!
殲滅槍(ラグナレク)発動準備開始。5、4、3、2…
「あーもう!じゃから畑を荒らすなと言っとろう…」老人が遠くで口煩くしている。
案山子が拳を振り上げる。
1…
頭上から聞こえる「がっ!」という老人の声
ボゴォーォン!という衝撃音
納屋の下にいた老人が居ない
いや居た。目の前で案山子メイドに鉄山靠を決めている。
納屋まで30メートルの距離を一瞬、否!刹那の間に移動しただと!?
「ぐわっがあああああ!!?!」吹き飛ぶ案山子
0…!
全く状況が理解できないままラグナレク発動!!
コジマ支援用人工衛星タマノから一本の槍が射出された。それは18秒後に地上に到達すれば、反物質反応を起こし半径50kmを破壊し尽くす。それがラグナレクだ。
だが18秒後…!
パシィ!
「ん、空から棒が落ちてきたのう。ほう、こりゃあ物干し竿にちょうどええ」
「ラグナレクを掴み取ったー!?!」
「にしても、ずいぶん畑を荒らしてくれたもんじゃのう?」
「いや、その、大部分はあの案山子がお爺さんの鉄山靠で吹き飛ばされた後が原因じゃないですかね?」
「はて?すまんな最近耳が遠くてのぅ。もちろんお嬢さんも畑を直すの手伝ってくれるじゃろ?」
スチャ。とラグナレクを構えて老人は告げた。
例えラグナレクが直撃しようとコジマの装甲なら耐え得るが、柔和な老人から漂うただならぬ気に完全に萎縮したコジマは、ただ「あッはい!」と答えたのであった。
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