車窓から見える景色とお弁当
Daydream.1




召還列車はその大きさや速度に比べて、あまり揺れることはありません。
衝撃吸収装置は勿論、細部に至るまで国の象徴として完成されているそうです。

小豆色をしたふわふわの対面座席に、木と鉄が織り成す装飾と、素敵な添乗員さん達。
仄かにお香が漂う車内はその全てが高級感の主張。
車窓から差し込む茜の日差しが、点、点、点と。決して開けてはいけないのです。環境汚染が酷いから。
見栄とか権威主義か、そういうのを煮詰めて煮詰めて熱した塊の産物なのに、上辺だけはとっても上手に取り繕っているのだと思います。

その辺を舐めたらきっとしょっぱくて血の味がするでしょうね。
それか屈辱の味、苦い胆の味。


「失礼いたします。ようこそ、大強国鉄道北支縁業線へ。長旅の御伴に飴などいかがですか?」
「いいえ、結構です。真衣詩駅で降りるので」
美人で和装エプロンの添乗員さんが去っていく後姿が、帯や紐がゆらゆらりゆれて。
あ、向うからも同じような金魚がすれ違いにやってきました。

「失礼いたします。ようこそ、大強国鉄道北支縁業線へ。長旅の御伴に鞭などいかがですか?」
「いいえ、結構です。真衣詩駅で降りるので」
金魚は通り過ぎていく。もしかしたら真衣詩町には鞭を使ってるお店があるのかも。転売すればよかった。

水筒は少し温くなって、蓋を開けるとポッ、って音がします。
冷却を追加してもらおうと席を立ってスタンドまで歩き始めました。


何度かすれ違い、配給食車両のスタンドまで来ると、そこはまた雰囲気が違いました。
多くの乗客が飲食喫茶を楽しんでいるようです。家族、恋人、仲間。私は一人。
水筒に冷却を補充する機械を探して、硬貨を入れて、水筒に管を繋いで、入力。
ガーッ ガーッ ガーッ
数回の動作音の後に補充終了の文字が回転しました。これで降車するまでは冷たいでしょう。
辺りを見回すと、やっぱり一人。
なんとなく寂しいので、早く席に戻ります。



元の車両に戻ってくると、席がなくなってしまいました。
おのれ金魚。




私が降車する真衣詩駅は、真衣詩町という地区のほぼ中央に存在してるそうです。
そこにお引越しをして、そこで働くのです。新しい生活が始まります。

町が町なので、両親にはとても怒られました。勘当ですよ。
二度とこの家に戻ってくるな、と。お前は私達の娘でも何でもないただの畜生だその辺で死に腐れ、と。
姉は呆れていましたが、お守りと個人用の電報記号のメモをこっそり渡してくれました。
「どうせ死ぬなら、自分の死にたいように死になね。お姉ちゃんだけには手紙を頂戴。はい、これで親には秘密で届くから」


私は間違っているのでしょうか。それとも世の中が間違っているのでしょうか。
需要と供給で成り立つ社会に、私はその歯車の一つとして回ろうとしています。
何がいけないのでしょうか。
私がいけないのでしょうか。

私がいけないのですね。


頭がぐるぐる回って気分が落ち込んでいたのですが、車内アナウンスで我に返りました。
「――ィシー、マイシー。マモォーナクゥー、マイシー、マイシー。カンラクインショクユ――」

着いたようです。
私は素早く荷物をまとめると、乗り降り口前に向かいます。
すると、同じように真衣詩駅で降りる人が集まってきました。
やっぱりガイジンが多いようでした。その次に多いのは、見るからに富裕層に見えるスーツ。何か粗相をここでしたらきっと私は粛清されてしまいます。
そんな町なのです。真衣詩町という場所は。




僅かな停止の揺れと、ドアが開きます。


流れる人混みに私は小川の笹船のように流されます。
ぶつかるのは石ではなく、人の肩と荷物と視線と悪意。

チリン
そういえば真衣詩町の北側の陸橋は確か鈴鳴川って名前でした。
よくわからないけど、自分で鈴を買ったっけ。今更なって思い出すなんてなんなんだか。


ホームの天井には西洋風の天使と東洋風の踊り子の巨大な絵が貼ってありました。
見上げる私は田舎者丸出しでした。
自然と口が開く。きっとこの口も汚れていくのです。体も、心も同様に。



もう日が沈むまで時間がありません。
夜を迎えるまでに、お店に顔を出さなければなりませんでした。




きっとこれは、私の詩。
生きる意味と死に場所を求めた。

誰もが生きているから欲にまみれ、その淡壺として。




ようこそ、真衣詩町へ。ようこそ死に腐れ。
誰かが囁きました。


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