ロウ タマシイを見る
第一章 出会いと別れ 



ロウはしばらくの間、この村にお世話になることになりました

またあの男たち、盗賊が、この村を襲いに来るかもしれない、それに人々の暮らしにふれてみたい、と思ったからです
なにより、獣人であるロウに分け隔てなく、優しく接してくれる村の人たちのことを、ロウはとても気に入りました


ロウは村長の娘であるレイラという少女のもとで家事手伝いや村の警備などをして過ごしていました

小さい子供達と遊んだり、村の周りを散歩したり、のんびりと日々を楽しんでいました

たまに冥界のお話を村の人に話したりしましたが
ロウが冥界についてよく知らないこと、地上ではおとぎ話だと思われていること、ロウが少しおバカなので説得力がないことなどにより信じる人はほとんどいませんでした

小さい子供をのぞけば、信じているのはレイラだけでした



レイラはとても博識な女の子でした

ロウのために地上の常識を教えてくれたり、書庫から面白そうな本をたくさん持ってきてロウに読んであげたりしてくれました


ロウはそんなレイラが大好きでした

彼女の優しさがとても嬉しいし、一緒にいるととても楽しい日々が過ぎていきます

いつしか、ロウにとって姉妹のような存在になっていました


〜


時は過ぎ、レイラも美しい大人の女性へ成長しました

ロウは相変わらずちっこいままでしたが、村も平和な日々が続き、ロウもレイラも相変わらず仲良しでした



ある日、ロウにとって地上に来てから、何度目かの「初めて」が訪れました


村長である、レイラの父が死んだのです


当時ロウはレイラやその家族、医者と共に村長の枕元に座っていました

泣きわめく家族に優しく手を伸ばし、村長は安らかな顔のまま目を閉じました



永久の眠り 死



不死の世界で生きてきたロウは初めて人が終わりを迎える姿を見ました


ロウがどんなに強い女の子でも、どんなに強力なマナを持っていても、寿命を伸ばすことはできません

得体の知れない感情がロウの全身に沸き上がりました
同時にポロポロと涙がこぼれました

涙を流すのも初めてでした
ただ、そんなことよりも、無力な自分を呪いました


ごめんね ごめんね


心の底から、そう思いました



その時です

村長の体からポゥ…と光が放たれるのがロウには見えました

光は宙で虹色のかがやきをおび、やがて勢いよく空の彼方まで飛んで行きました


あれは・・・虹色のタマシイ…?
そうだ、タマシイだ!

ロウが涙目で空を見上げていると、涙で顔がグシャグシャになったレイラが声を震わせロウに歩み寄りました

「父さんは…父さんは天国に行けたのかなぁ?」

ロウはレイラにそっと寄り添いました


大丈夫…大丈夫だよ


それ以上の言葉はありませんでした


〜


やがて、ロウはいくつもの死を目にするようになりました

老人の多い村でしたから寿命で亡くなるものばかりでした

皆一様に幸せそうな顔で事切れました

幸せな生活、楽しかった日々、素晴らしい家族  謳歌した人生に悔いがなかったのでしょう

人の死の度に、ロウは虹色のタマシイが解き放たれていくのを見ました

あのタマシイは冥界に送られ、時を待ち、天界へと昇り、再び人の形を持つのだろう

ロウは少しだけ、冥界のある意味がわかった気がしました



ただ、ロウには気になることがありました


灰色のタマシイ…「ヌケガラ」は一体なんなのか?


ヌケガラの多くはふれると消えてなくなります
しかし、まれに虹色にかがやくものもあります

ということは、ヌケガラも元を正せば人のタマシイではないのか?なぜ、死んだ人からヌケガラは出ないのか?

ロウは長い時を冥界で過ごしていましたが、ヌケガラについて詳しいことはよく分かっていませんでした

「おしごと」するのは当然の日課だったし、疑問に思うことも、人に聞くことも考えたことはありませんでした


ロウは、また、「知りたい」と思うようになりました

探しに行こう
知らないものを…


〜


ロウは村を旅立つことを決めました

惜しむ声は多かったですが、今までのロウの助けに感謝の気持ちを込め、村人たちは心からロウを激励し、旅立つ姿にエールを送りました

村に来たばかりのころは小さかった子供たちも、今では立派な自警団に成長しました


この村なら、私がいなくても大丈夫
みんな、ありがとう…


ロウは皆に笑顔で手を振りました




村の入口ではレイラが最後の見送りに来てくれました

「本当に行っちゃうんだね…寂しくなるなぁ…」

悲しげな表情のレイラ

彼女の蒼く美しい髪に手を触れ、ロウは笑顔を見せました


また会いに来るから、待っててね


レイラも笑顔を返しました

「うん、待ってるから…いつでも会いに来てね」

そう言いながらも、レイラはまた不安げな顔を見せました

「あなたのいた冥界が、どんなところなのかよく分からないけど…この世界はいろんな事が絶えず起こっているの…悲しいことも、苦しいことも、たくさん…」

「この世界が辛くなったら、いつでも帰っていいんだからね そこがきっと、あなたが本当にいるべき世界なのだから」

ロウは元気にコクンとうなずきました


谷を登って後ろを振り向きます
村はもう、ずいぶん小さく見えます

ちょっと、切ない気持ちがこみあげました
でも、すぐに前を向いて歩き出しました

知らないものを探す旅は、まだまだ始まったばかりです








…ロウが村を出て数ヵ月後
村に火の手が上がりました

黒煙と共に灰色のタマシイが浮かんだことを
ロウが知ることはありませんでした



第一章 完



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