ヌケガラの意味
第二章 等価交換



村を出てから、ロウは城下町を目指すことにしました


レイラからいろんな本を読ませてもらいましたが、知識を得るには大きな図書館が必要です

大きな町、大きな国を目指し、ずんずん足を進めます

ピッコロを吹きながら小鳥を連れて山道を下だり、行商人の行き交う海沿いの街道を歩き、トコトコ トコトコと歩を進めていきます


行き当たる町や村を楽しむのも旅の醍醐味です

美味しい特産品、美しい風景、活気あるいろんな人種の人々、知らないものは山ほどあります

ロウは旅を楽しみつつ、通り過ぎる町々で道を聞きながら城下町を目指し、トコトコ足を運びました





ある日、ロウは小さなさびれた村にたどり着きました


人里離れた小さな村


外は大雨です 急いで建物の影まで走りました
自慢の尻尾はビチョ濡れです
ロウは尻尾を雑巾のようにギューッと絞りました


一息ついて村の中を見渡すと得体の知れない違和感に襲われました


なんだろう、この村…なんか変だぞ?


崖沿いのその村は、全く活気のない村でした
民家はボロボロ、人々は皆元気がありませんでした

こんな村は初めて見ます
一体、どうしたというのでしょうか







「盗賊だよ 全部奴らのせいさ」

タオルをかぶり、カウンターでホットミルクを飲みながら、ロウは事の成り行きを宿屋のおかみから聞いていました

「ここんところ大きな拠点を作って暴れまわってるのさ この村は城から離れてるし、献上する金も土地もないから国も守っちゃくれないんだよ」

銀色の腕輪をはめた左腕をパタパタ振り、おかみはため息をつきました

「盗賊もそこに漬け込んだんだろうね ただでさえ食ってくのに精一杯だってのに・・・ひどい連中だよ、全く」


ロウはいきどおりを感じました


こんなに苦しんでいる人たちがいるのに助ける人はいないのか?
こんなに苦しんでいる人たちをなぜさらに苦しめるのか?

盗賊が来たら、またとっちめてやる!


ロウはプリプリしながらコップに口をつけました


「何もない村だけど、ゆっくりして行っておくれよ お客は大歓迎さ」

ロウがマグの中身を飲み干すと、おかみは新しいミルクをついで差し出しました

ロウは嬉しそうに、湯気の立ち上るカップに口をつけました


「・・・しかし、今日は馬鹿に雨が降るねぇ・・・」

おかみが窓を見ながらつぶやきました



その時でした



バシャァァアアァアッッ!!



とてつもない豪音と振動が宿に響き渡り、同時に大量の土砂が天井を突き破り、ロウに降りかかったのです





山積みの土砂、岩石、がれきをかいくぐり、ロウはピョコっと土から顔を出しました

プルプルと顔を震わせ、土を払います
顔についた泥を腕でぬぐい、尻尾をパタパタ振り回しました


視界が開け、ロウはあたりを見渡しました


そこには信じられない光景がうつっていました


さっきまで自分がいた宿屋は屋根まで土砂に埋まり、村のありとあらゆる民家は土にうもれ、見えなくなっていました

大雨で崖が崩落したのです



こんなことって・・・
・・・そうだ!おかみさんは!?村の人たちは!?


ロウは自分の埋もれていた土砂を掘り進めました

雨で湿った土砂を小さな手で掘り返していきます
全身全霊 無我夢中で掘り進めます

宿の屋根の支柱をひっくり返し、さらに掘り返していくと見覚えのある腕輪と腕が見えました


おかみさんっ!!


ロウはガシッとその手をつかみました




プラッ・・・




地面から出てきたのは




腕 だけでした



肘から先はカウンターと屋根に挟まれ切断されていたのです

土砂でうもれたカウンターの先には、原型をとどめない肉の塊が血まみれになって潰れていました


おかみ・・・さん・・・


ロウはドスンと腰を落としました
ドサッとちぎれた腕が濡れた屋根板に転げ落ちます


しばらくロウはそこから動くことができませんでした

茫然自失のロウの視線に光が浮かび上がります


ロウは
ついに目にしました


灰色のタマシイ 「ヌケガラ」


潰れた家屋から
ポツリ、ポツリと

虹色のタマシイに混じって、ヌケガラが空に浮かんでいくのを目にしました


なんで・・・? どうして・・・?


ロウは動けないまま冷たい雨に打たれていました


「ううぅ・・・・・・」

ロウはバッと後ろを振り返ります

そこには血まみれの男性の姿がありました


ロウは急いで歩み寄りました

多少のケガならば、マナの扱いに長けた魔獣であるロウに治せないことはありません


しかし彼は手遅れでした


下半身は落石に押しつぶされており、息も絶え絶えの状態でした



その場で固まってしまったロウに男性は気づき、震える手を差し伸べました


「あんた・・・俺を・・・・・・俺を・・・殺してくれ」


ロウはたじろぎ、恐怖しました
「助けてくれ」と言われたことはあっても「殺してくれ」なんて言われたことはありません

男性は悲痛な表情のまま、枯れた声を絞りました

「苦しい・・・俺は・・もう助からない・・・早く、殺してくれ・・・頼む・・・」

ロウは固まったまま動けませんでした

「こんな・・腐った世界で生き続けるなら・・・とっとと死んだほうが・・・よかったんだ・・・」

「早く・・・・・・くる・・・しい・・・・・・ころ、して・・・くれ・・・」

ロウは男性の手を握りました
強く 強く握り締めました

癒せる傷ではありません
でも、少しでも痛みが和らぐようにマナを送り続けました


ごめんなさい ごめんなさい


泣きじゃくりながら、ロウはマナを送り続けました


やがて男性のうめき声は聞こえなくなり、握っていた腕から力が抜けました


男性の体からポゥ・・・と光がもれました

灰色の鈍い輝きを帯び、それはゆらゆらと天へ昇っていきました



悲しみに暮れるロウ



彼女はヌケガラの意味を漠然と理解し始めていました



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