望まれない再会
第二章 等価交換






ロウは崩壊した村のあちこちを掘り返し続けました

既に土砂崩れから数日が経過していましたが、生存者は誰ひとりとして見つかりませんでした


出てくるもののほとんどは潰れた肉の塊でした
皮膚はえぐれ、内蔵が飛び出し、どれも目を覆いたくなるような無残な姿でした

ロウは泣き喚きながら、嗚咽を繰り返しながら、土砂から遺体を掘り返し続けていました


こんなに悲しいなんて
こんなに辛いなんて


三日三晩泣き続け、土砂を掘り続けました




ロウは村の裏に小さなお墓を作りました

出土した遺体を井戸水で洗い、木を削って作った棺桶にそっと入れ、お墓に埋めていきました

何人も何人も掘っては埋め、掘っては埋めていきました

ロウは泣きながらそんなことを繰り返していました





そんな作業のさなかのことです

馬の駆ける音が遠くから響きました


誰か事故に気づいた人が来てくれたのか?


ロウはそう思い、音のする方に目を向けました

近づいてくるものを確認すると、ロウは近くの岩場に身を隠しました


あいつらは・・・あの時の・・・!!


かつて谷底の村に訪れた際、村を襲撃した盗賊団の顔ぶれがこちらに押し寄せてきたのです



彼らは土砂に覆われた村をうろつき始めました

「いやぁ〜予想以上だな ま、手間が省けたってもんだ」


・・・何を・・・言ってるんだ?


ロウは耳を澄まし、岩場に隠れながら彼らの会話を聞いていました


「気づかれないようにコツコツ崖を掘り起こした甲斐があったってもんだぜ」

「この雨期に入りゃ崩れるとは思ってたが、こうもうまくいくとはな」

「国のお偉いさんたちが街道にする予定地だ、しっかり綺麗にしてやんねぇとなぁ!」

「全くだ!ハハハハ!!」

「さぁ、金目のものだけ掘り返して、とっととずらかろうぜ」


・・・なんという・・・なんということ・・・!







一通り遺体を掘り出し、簡素なお墓が完成した後、ロウは盗賊たちのあとを追いました

怒りと悲しみが頭の中でごちゃごちゃ暴れています

難しいことは分かりません
でも、はっきりと思うことがあります


あいつらを、許してはおけない!

きっと、もっと悪いことをしているに違いない
止めなければ・・・私が・・・止めなければ


ロウは全速力で駆けました



やがて、ある山の奥に盗賊団のアジトを見つけました
要塞のような、お城のようなとても大きな建物です


巨大な城門の前に歩を進めます

ロウは四足で地にしゃがみこみ、後ろ足で地面を掻きました



これが私の・・・村の人たちの・・・

怒りだ!!



ロウの体が火の玉と化し、爆音を轟かせ、城門にぶち当たりました


ドゴガァン!!


城門に風穴が空き、城内に爆煙が広がりました





〜〜

「地上の生物は弱い生き物だ・・・とても脆い・・・私たちより、ずっとね」

「だから、優しく・・・優しく触れ合わなければいけないよ・・・いいね、ロウ?」

〜〜




おじさんは、よくそう言っていました
ロウもその教えを守ろうと誓っていました


今だけは、それを破ろう
この怒りは、私も抑えられない・・・



盗賊団のアジトの中でロウは盗賊たちと大立ち回りを繰り広げていました

刃も銃弾も通らない青い獣人
軽く振るう腕 ちぎれ飛ぶ手足

数千はいようかという手練の盗賊たちも、不死の獣人の力の前に手も足も出ませんでした



戦意喪失状態となった盗賊たちを紐でグルグルに縛り、ロウはアジトを制圧しました


なんでこんなことを・・・
なぜ村の人たちに・・・あんなことを・・・!


ロウは拠点の長である隻眼の男に怒りをぶつけました

「あんなこと、だと? ・・・当たり前だ、金のためさ、それ以外に何があるんだ」

「がむしゃらに働くより、殺して奪い取ったほうが手っ取り早いだろ?」


お金なんかのために・・・村を、人を・・・
あんなに苦しめておいて・・・よくもそんなことをぬけぬけと・・・!!


ロウは拳を震わせました

「何言ってやがる、金がなきゃ生きられねぇだろうが・・・」

隻眼の男は嘲笑しました

「ここはただの一つの拠点だ 頭領はまだ各地で暴れまわってるだろうなぁ」

「それに・・・別に金だけ奪ってるわけじゃねぇけどな・・・その気になりゃ、金の代わりになるのもあるしなぁ・・・ククク」

なんだと・・・?





ロウは嫌な予感を感じていました

隻眼の男の言葉もそうでしたが、この城は襲撃前からいくつかヌケガラが浮かんでいたのです


もしや・・・まさか・・・


ロウは城内を探索しました

ちぎれた手足を踏みつけ
倒れ伏せた盗賊を蹴飛ばし
扉という扉を開きました



やがて、城の地下への扉を発見しました


キイィィィ・・・


扉の先は悪臭漂う広間になっていました

血の跡が所々に見られ、壁には拘束具のようなものが設置されています


なんなんだろう、この部屋は?


なにかおかしい
ロウはそう感じていました

血や腐肉の臭いに混じって嗅いだこともない異臭がします



ロウが警戒して歩を進めると、部屋の奥からすすり泣く声が聞こえました


誰か・・・誰かいるんですか!?


ロウが声をかけても反応がありません

声の方に近づくとまた扉がありました
鉄でできた頑丈な扉です

ロウは素手で鍵を叩き壊すと、恐る恐る扉を開けました







かつて谷底の村にて本で読んだ、地上の人々にとっての「地獄」

それはまさにこれではないか
とロウは思いました



狭く細長い石畳の通路の両脇に、女性たちが一直線に並び、うなだれていました

鉄の腕輪と鎖で壁につながれたもの、直接腕に鉄針が打ち込まれたもの、皆が何かしらの拘束具を取り付けられていました

そんなことよりも
皆 誰もが 体を欠損していました

ほとんどの者は目や手足をもぎ取られていました 無理やり抜かれたのか歯や爪のない者も多くいました
傷口は布が巻かれているだけで体中いたるところを蟲が蠢き、腐肉にかじりついていました



ロウはあまりの光景にたじろぎました
そして、先ほどの部屋の意味を少し理解しました


女性たちは下半身を大きく損傷していたのです

股からは体液が絶えずしたたっています
その臭いが血と腐肉に混じり、この世のものとは思えぬ悪臭を発していました


誰にも生気と呼ばれるものが見えませんでした

うつむいているもの、焦点の合わないもの、ケタケタ笑っているもの、死んでいるのかピクリとも動かないものも多くいました




無言のままロウは歩を進めました



声が 出ません

なんと声をかければいいのか
どうすればいいのか

どうするでもなくロウは歩を進めました




「・・・ロウ、ちゃん・・・」




・・・

聞き慣れた声が


優しい声が


ここでは絶対に聞きたくなかった声が


ロウの耳に入りました

ロウはゆっくり、ゆっくりと
声のする向きに目を向けました




……レイ・・・ラ・・・




ロウは絶叫したい気持ちを

嗚咽したい気持ちを抑えるのに精一杯でした


懐かしい顔 美しい蒼い髪
どちらも酷く傷ついていましたが、それは間違いなく、谷底の村で一緒に暮らしたレイラでした


「また・・・会えたね ごめんね・・・こんな姿で」

レイラは笑顔で答えました


ロウは今にも泣きそうな顔でした


全身に鉄針が打ち込まれ壁に貼り付けにされ、片目はえぐられています
何より 下半身は内蔵が飛び出るほど欠損していました



「村・・・焼かれちゃった 生き残ったのは多分・・・私だけ、かな・・・」

「ごめんね・・・ロウちゃんには幸せな世界を見せてあげたかったけど・・・これがこの世界なの」

「楽しいことだけじゃなくて、辛いことも、悲しいことも、いっぱいあるの・・・こんなふうに」



ロウの瞳からポロポロと涙がこぼれました
焼け爛れたレイラの顔に手を寄せ、ワンワンと泣きました




レイラは肘も残らない右腕をロウの肩にそっと置き、泣きじゃくるロウに優しくつぶやきました


「ロウちゃん、私を・・・殺して」


ロウはガバッと顔を上げ、涙を撒き散らせながら、ブンブンと大きく首を横に振りました


そんなこと・・・出来るわけないじゃないか!!


優しげな表情のまま、レイラは答えました

「お願い・・・もう私は人並みに生きられないから・・・生きていても仕方ないから」

「こんな体を愛してくれる人はいない・・・子供も作れない・・・仕事も、家事も、何もできない」

「誰のためにもなれないまま生きていくのは・・・すごく、辛いから・・・」


ロウが言葉を詰まらせていると、後ろからも擦り切れそうな声が聞こえました

振り向くと、両手両足を欠損している女性が涙を浮かべ、ロウに懇願していました

「私も・・・私も殺してください・・・もう夫に会わせる体はありません・・・」

そばにいた小さな少女たちもロウのそばに擦り寄りました

「私も、お願い 苦しいの もう怖いのは嫌・・・」

「お母さんもお父さんも殺されちゃった・・・もう帰るおうちが無いの・・・」

喉を焼かれた者たちも次々にうなずき、ロウに懇願しました



ロウは


ロウは・・・






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