結果が残したモノ第四章 教えて
ロウはトボトボ歩いていました
広大な大地を
何日も 何年も
あてもなく歩き続けました
心にぽっかり 穴が空いたようでした
私は・・・
・・・私は・・・
やがてある山を越えた先に、大きな城下町が見えてきました
良かった・・・
生き残ってる街があった・・・!
ロウは急ぎ足で山を下っていきました
ですが街に近づくにつれ、ロウは速度を ゆっくり ゆっくり落としていきました
なに・・・これは・・・?
城下町一帯を覆う防壁には荒々しく無数の兵器が飾り付けられていました
街の中心には巨大な真球のモニュメントが高々と飾られています
そして・・・城門に大きく掲げられた看板
『聖獣教 総本山』
何なの・・・一体?
ロウが城門まで近づくと、無数の警備兵が彼女を取り囲みました
「貴様、教団員か!?所属番号を名乗れ!!」
ロウはたじろぎ、構えました
警備兵の一人がロウのブレスレッドに気づきました
「ほう・・・随分年季の入ったブレス・・・熱心な信者とみた」
「・・・そうか、国外の信者だな?」
警備兵たちは城門を開きました
その間に、一人の警備兵がロウに一冊の本を渡しました
とても分厚い本には端から端までびっしりと文字が覆っていました
「入ってよし!ただし、生活するために、まず教育校舎に入ってもらう!」
ロウはキョトンとしながら警備兵とともに歩を進めました
「その聖書には、ここで生活する上での必要最低限のルールが書かれている」
「貴様はこれから1年間、教育校舎でそのルールを頭に叩き込むのだ!」
「聖獣教の教えのもと、そのルール通りに生活するのだ、分かったな!?」
ロウは門の中に迎え入れられました
門の中では人々が生活していました
しかし、ロウはすぐに異常に気づきました
街中の民家には無数の弾痕が見られます
道行く者たちが無言な中、軍人たちは商店街で怒鳴り散らしたり、集団で人を殴りつけたりしているではありませんか
時たま銃声が響いたかと思えば、動かなくなった人の脚を掴んで、軍人が引きずり回しています
誰も、その「異常さ」を気にかけません
ロウは恐怖しました
急ぎ先ほど渡された本を開きます
先頭のページには一際大きい一文が刻まれていました
『[兵士]を除く、いかなる争いを禁ず』
なんとういこと・・・!
人々は軍に押さえつけられていました
自由な思想を失い、巨大な牢獄に囚われていたのです
よく見れば、誰もが機械的で事務的なやりとりを続けていました
笑顔の中に感情がありません
ゆっくり足を進めるロウの目にひとつの掲示板がとまりました
そこにはびっしりと小さな文字が書かれていました
『B地区住民 6:00 起床 7:00 通勤・通学』
『G地区○○ 11:45 △△交差点で××に挨拶』
『A地区□□ 13:00 C地区裏にて首吊り自殺』
・・・・・
ロウの恐怖が倍増しました
これらは『今日起こったこと』のリストではありません
『今日すべき行動』のリストです
狂ってる・・・!!
伝言ゲームの末路
もうそこにはロウの教えなど、かけらも残されてはいませんでした
ロウが呆然と佇んでいると突如サイレンの音が響き渡りました
住民たちは一斉に街の中心地に向かって走り始めます
「あんた、何やってる!?さっさと来るんだ!死んじまうぞ!!」
雪崩のように人が走り行く中、道行く男性が放心状態のロウの腕をつかみ、彼女を抱えて走りました
〜
街の中心には巨大なコロッセオがありました
ロウは住人たちと共にコロッセオの外周に並べられていました
後ろには大勢の兵士が武器を構えています
手に抱えられたものは拳銃でも、ライフルでもありません
巨大な爆発を引き起こすバズーカ砲です
うかつに動けば、ここにいる人は皆吹き飛んでしまう・・・
ロウは息を飲みました
やがてコロッセオの中に、無数の兵士と共に十字架に貼り付けられた人々が荷台に乗せられ運ばれていました
誰もが酷い怪我を負っていました
・・・ガルア!!
磔にされている人の中に教団員の青年の姿がありました
キンキンとスピーカーの音が響きます
『さあさあお立会い!公開殺戮ショーも本日で500回目!!』
『我ら聖獣教に反旗を翻す愚か者どもも、ついに100000人を突破しました〜!』
・・・なんということを・・・鬼畜めっ!!
軍が一方的に戦力を持つように仕立て上げ、民衆には逆らえないよう恐怖政治を慣行
もはや宗教としての形も成してはいません
こんなもの・・・
私の教えではない!!
磔にされた多くのものたちは皆思い思いの言葉を吐き出していました
「聖獣教の名を語った悪徳国家めぇ!!」
「貴様らの思い通りにはさせんぞ!!」
「他国にまで恐怖政治を押し通すつもりかぁ!?」
他国に・・・まで・・・?
ロウは理解しました
このバラン地方一体の焦土はこの国が原因だったのです
とある軍事国家が国の発展のために聖獣教の名を語り、制圧に乗り出したのです
彼らは無抵抗な聖獣教信仰国や弱小国家を狙い、資源や軍事力を蓄えました
やがて圧倒的な戦力差の前に他国は服従せざるを得なくなり、奴隷のように扱われていったのです
それはまさに「聖獣教」の名を語った独裁政治でした
一斉に弾丸が放たれます
ドドドドドドドドドドドドッッッ!!!!
ビシィッ! ドチュッ!ブチュゥッ!ブチィッ!
怒りの声を上げていた者たちが成すすべなく撃ち貫かれていきます
悲痛な叫び声が上がりました
あえて急所を外すように狙いを定められた弾丸が、ゆっくり ゆっくりと彼らの体を削り取っていきました
あまりの痛々しい光景に、多くの民は顔を伏せ泣き叫びました
ロウも恐ろしさのあまり目を背けました
その時です
「平和は・・・平和は必ず作り出す!! 新しく!生み出してみせる!!」
血反吐に混じった叫び声が響きます
多くの磔にされたものが肉片に変わりゆく中、石柱族の青年だけは、ボロボロに砕け散ろうとする肉体の原型を留めていました
「誰もが望む・・・平和な世界・・・聖獣神様の教えが・・・必ず平和な世界を作り上げる・・・!」
口元から鮮血を散らしながら、青年は声を荒げます
「例え・・・私が消えようとも、聖獣教の教えは正しく語り継がれる・・・!! 継ぐ者がいる限り・・・人がいる限り、『命』がこの世にある限り・・・絶えはしないッ!!」
雄叫びを上げる青年の体に銃弾の雨が浴びせられます
ドガガガガガガガガガガガガ!!!!!
バキィッ!!ビシッ!バシッ!ビキィ!!
バラバラと崩れていく体
ガルアは渾身の雄叫びを上げました
「平和を作り出してみせるッッ!!この命に換えてもぉッッッッ!!!!」
バカッ!ビシィッ!
バキィ! ビキィッ・・・
ビキッビキビキ・・・
・・・ガラガラガラッ・・・
カラッ・・・カラ・・・コッ・・・
無数の銃弾を受け、粉々になった岩石の破片が辺りに飛び散りました
銃痕だらけの十字架の下には、赤錆色の灰の山だけ残っていました
銃声が止み
コロッセオの周囲を囲んでいる兵士たちはゲラゲラと大笑いしました
「何を馬鹿なことを言ってるんだか!教祖もいねぇんじゃ、ここで終わりだな」
「命に換えても、だとよ! もう換える命もねぇのになぁ!ヒャヒャヒャ!」
国民は皆静まり返っていました
天に向かって
虹色の光が
いくつか昇っていきました
〜
小さな廃屋
元々そこには小さな教会がありました
ボロボロに焼け焦げた椅子にロウは腰を下ろしていました
給水所の戸棚からヒビだらけのティーカップがはみ出し、月夜に照らされ輝いています
ロウの力の抜けた腕から、するりとブレスレッドが抜け、コロン・・・と足元のがれきに滑り落ちました
こんなに時間をかけたのに・・・
あんなに多くの人に伝えたのに・・・
全部・・・なくなってしまった・・・
全て・・・無意味になってしまった・・・
膝が崩れ落ち
ロウはうつむきました
涙が止まりませんでした
ごめんね ごめんね
ロウの前には
粉々に砕かれた石像が月明かりを受け 美しく 輝いていました
〜
「・・・ガルア様・・・逝かれた、か・・・」
真球のお守りを握り締めた老婆がポツリとつぶやきました
「最早、この地には残れぬ・・・」
広間にロウソクを灯す老婆
その後ろには数千、数万もの人々が列を成していました
皆一様に、真球のブレスレッドを腕に結わえていました
「皆の者・・・参ろうぞ・・・」
「ガルア様のお言葉を・・・聖獣神様のお言葉を、世界に伝える旅へ・・・」
〜
バラン地方
かつてこの地には宗教の力を利用し、様々な悪行を行う王国がありました
その国は地域一帯の国という国を武力で制圧していきましたが、とある宗教団体の長が処刑されたことを皮切りとし、国内の信者達による大規模なデモが発生、また、別大陸の信仰国の逆鱗に触れたことにより国内外からの激しい攻撃を受け、没落しました
荒廃したと思われた大地は徐々に緑を取り戻していました
何もない緑の大地が人々の手で開拓され街ができるように、何もない荒れ果てた荒野は人々の手で美しい自然を広げていきました
この緑化運動の先陣を切ったのは「聖獣教」と呼ばれる団体でした
教祖を失い地域一帯から姿を消したと思われていたこの宗教団体は、もう一人の指導者の指示の元、遠く離れた大陸に身を隠して再興の機会を伺っていたのでした
彼らは先人が書物として残した知恵の数々を各地で役立てていきました
肉球の印が押されたその書物には、様々な役立つ情報や平和への指針が記されており、多くの国や地域に恵みをもたらしました
他の地域で活動していた教団員達が集まったことで勢力を拡大した彼らは、永き時をかけて再びバラン地方一帯で教えを広め、少しずつ 少しずつ 世界に教えを伝えて回りました
彼らの腕には真球のブレスレッドが巻かれ、彼らの胸元には石柱を抱える獣人を模したアンクが添えられていました
この後何世紀にもわたり「聖獣教」の教えは語り継がれ、バラン地方は「聖獣神の都」として歴史に名を刻むこととなりました
その事実を
ロウが知ることはありませんでした
第四章 完
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