欠けた歯車第四章 教えて
ブラウン国は 約束は守りました
全聖獣教教団員に一切手をかけることはありませんでした
しかし信仰すべき教祖を失った事実とブラウン国の卑劣な行為に憤りを覚えた教団員達の多くはバラン地方を離れ、散り散りになっていきました
ある場所ではロウと同じように教会を立ち上げ
ある地方ではひたすらに巡礼の旅を続け
各々がロウの教えを信じ、彼女の想いを伝えて周り続けていました
しかし教団長であるロウが法を犯したという噂は、聖獣教の立ち位置をさらに危うくさせました
邪教・聖獣教弾圧への動きは加速し、多くの信者の血が流れることとなりました
一方でブラウン国は 約束を違えました
ロウが問われた罪は、彼らが勝手に新しく制定した法律によるものだったのです
彼らの真の目的は別にありました
ひとつは『生ける情報庫』であるロウの持つ知識でした
彼らはロウの知識を利用して、軍事や国益を強化しようと考えていたのです
ロウは何一つ口を割る事はありませんでした
ですが、それは予想の範疇でした
彼らはロウを幽閉し拷問を繰り返しました
例え情報が得られなくても、聖獣教の教祖がいなくなった今、宗教団体の動きはこちらが握っています
聖獣教に揺さぶりをかけられる上、ロウを再び解き放てば他の宗派を鎮圧することもできるでしょう
彼らはロウを政治の道具にしていました
拷問室では日夜、おぞましい悲鳴が響きました
死なない肉体をいいことに、様々な兵器や投薬による生体実験、新種の怪物の戦闘力検査などありとあらゆる非人道的な行為が行われました
細切れにされ強酸に放り込まれたり、血管を引きちぎられ別の生物につながれたり、プレスに押しつぶされ挽肉にされたり
絶望に身をよじりました
激痛に顔を歪めました
恐怖に泣き喚きました
何億回も 何兆回も失神を繰り返しました
それでもなお、彼女は何も語らず、ただただ生き続けました
ある年
バラン地方で戦争が激化しました
ロウに対する拷問は資源の無駄と切り捨てられ、行われなくなりました
ロウは地下牢に繋がれました
窓も扉も 一筋の隙間もない暗黒の地下牢
壁以外の一切が無い空間
空気も 水も マナも 光も 何も存在しない 小さな部屋
常人なら発狂しそうな空間にいながら、ロウは静かに座り込んでいました
発狂する気力もありませんでした
ロウは、かろうじて腕につながれている真球のブレスレッドを撫でました
私の想いは
私の願いは
届いたのかな?
知りたいなぁ
見てみたいなぁ
平和な世界
ロウはそんなことを考えながら、思いを馳せていました
〜
やがて時は流れ
撫でられ続けた結界石のブレスが元の半分ほどの大きさになった頃
漆黒の部屋にピシピシとヒビが入り始め、一筋の光が差し込みました
眩しい輝きに照らされて、ロウはうつむいていた顔をゆっくりと持ち上げます
ロウは牢の外に出ました
そこに残っていたのは牢獄だけでした
戦争に敗北したブラウン国は滅亡し、城は廃墟と化していました
街があった場所は広大な荒野になり、辺り一帯には風化した骨や家屋の残骸が散在していました
残っているのは、ロウを出すまいと強固に作られたこの牢獄だけでした
ロウはフラリフラリと歩き続けました
やがて最初に教会を作った山奥のある場所にたどり着きました
そこにも 何もありませんでした
戦争で山肌はえぐられ、教会は跡地を残して吹き飛んでいました
ロウが長年をかけて作り上げた書庫や本は無残にも焼かれ、教えの象徴である真球の石像は粉々に叩き割られていました
ロウが教えを広めたバラン地方はただの荒野に成り果てていました
昔話を聞かせた村も
農業を教えた町も
詩を歌い伝えた峠も
なにも
なにも残ってはいませんでした
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