4【SW小説】友と父と精算の話※未完
一時間ほどの会合を終えて、私達は皆の健闘を祈りつつ解散することにした。
この時私達会員にとってなにより大事なのは、店を出る前に目のマスクを外すことを忘れてはいけないということだ。
一度だけそれを忘れたまま家まで戻り、しかもその状態で一番会いたくなかった下の兄に見つかってしまった時はその件をイジり倒されて深く後悔したものだ。
兄でなくとも目にしたものは皆強烈に印象に残るだろうし、その場で大笑いされることもあるだろう。
だというのにそこの会長はマスクを取り外さずに店の外へ出ていった。これは毎回いつものことだ。
思い返せば初めて会った時や、今日だってこの店で会った時も既に彼女の目には黒いマスクが装着されていた。
もしかしてあの人ずっとあれを着けて……いや、これ以上考えるのはよそう。
マシュマロに薄切りナッツとキャラメルソースのかかった甘々なココアはすっかり飲み終えて、このままくつろいでいたら寝てしまうんじゃないかと思えてきたのでそろそろ家に帰ろうかと支度を始めた時
「ドロテア、ちょっといい?」と声をかけられる。
マスクを外した会員T、もといティエだ。会長はドロテアのD、ティエのTと頭文字をコードネームにして呼ぶことを求めてくる。秘匿してなんになるのかは謎。
どうぞ、と答えた私に向かい合うかたちで、ティエは栗色の尻尾を抑えてソファーに座った。
ラタス店主一人娘ティエは、獣人である。
といっても血脈で言えば所謂人間の血に寄っているので体の全身がウロコや体毛に覆われていたりと言ったこともなく、頭から上方向に生えた耳やリスのような形状のおおきく丸い尻尾さえ目に入らなければ、古来から魔法・科学両世界で『人間』と定義されてきた種族と外見の差異はなく、ただの15歳の少女のように見える。
遺伝的問題で体格を大きくしにくいらしいが、それでも運命に抗わんばかりに戦おうとする彼女の姿勢が私は好きだ。互いに高めあっていこうと思う(身長だけに)。
「この前話していたラピス君、覚えてる?」
「うん、ティエちゃんの幼馴染みだよね」
「彼について個人的にドロテアさんに相談したくて」
「いいよ、私でいいなら話を聞かせて」
そう微笑むとティエは表情を和らげて頷いた。
ラピスはティエと同い年の幼馴染みだ。人間側の血から離れた獣人の血脈で、白と黒の体毛で全身がモフモフしているらしい。
会ったことはまだないので『顔は狼に似ている』との話から狼が二足で立っているようにイメージしている。
小等部の頃、ラピスが家庭の事情で隣国へ引っ越してから交流が疎遠になっていたらしいが、数年後再びこの街に帰ってきたらしくしばらくぶりに再会。ラピスが長身に成長していたことに衝撃を受けたのだという。
なぜ疎遠だった幼馴染みラピス君の話を私が記憶していたかと言うと、先月日輪草の集まりで話題にあがったからだ。
『私より背丈が低いと思っていた幼馴染みに、しばらく見ないうちに追い抜かされていた』と凹み半分に漏らしたティエを慰めつつ詳細を聞き、
『いやしかし、ある意味私達にとってもチャンスかもしれない』『急に伸びるのには理由があるはずだ、会員Tはスキを見て幼馴染み君から情報を探ってみて欲しい!』と会長がお願いしていたことがあった。
その幼馴染みラピスについての話題を切り出したということは、その活動になにか進展があったのだろうか?
身長の秘密についてはまだ何もわかってないんだけど。と前置きするティエ。
「その、数年ぶりに会った友達の性格というか、『人が変わったな』って思うことはある?」
「友達のではないけど、家族の知人と久しぶりに会った時に前の印象と変わってたりってのなら何度もあるよ。……ラピス君になにかあった?」
「昔はとっても気弱で泣き虫な子だったの。自分の意思を出すのが少し苦手っていうか。
引っ越していった時は向こうでちゃんとやっていけるか心配だったくらいなのに、久しぶりに会ったら別人ってくらい積極的で。でも、何度か会って話しているうちに違和感みたいなものがでてきた」
ティエはとつとつと語る。
隠しごとが多くなった。身長のことも向こうでの思い出も、戻ってきてからの生活も皆はぐらかされてしまったのだという。
他人に強気であたるようになった。ときどき苛立っているように見え、肩がぶつかった人に掴みかかったこともあったそうだ。
「友達が明るく前向きになってくれるならそれは喜ぶべきだし、会ってすぐはそう思ってた。向こうでいい人達に会ったんだなって。でもしばらくしたらそうじゃないんだって気付いた。
こんなこと言っちゃいけないけど……昔のほうが身近に感じた。今のラピス君が、ちょっと怖い」
そう言ったきり俯くティエ。
ただ怖い、関わりたくないというなら彼女はラピスと距離をとればいい。
でも、それはきっと望んでいないのだ。
そんな簡単なことなら、誰かに相談なんてしない。
「ラピス君が自分からああなっているのなら、現実を受け入れる。
でも悩みを持ってああなっているんだとしたら、私は彼の力になりたい」
絞りだすように口にした彼女の意思には、しかし不安も含まれていた。
彼女は横に立つ誰かを、背中を押す誰かを欲している。
「……わかった。私もティエの力になるよ」
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