新生、新製、新星?改革
以前パーティーに参加したのは何百年前だっただろうか。ミニエルは無我夢中で目の前の肉にを捌きながら頭の片隅で考えていた。テーブルの隅には彼が平らげた皿が次々と積み重なっていく。
「もう少し落ち着いて食べなよ」
分霊の一柱であるカーヴィンが書物を片手に迷惑そうな顔をこちらに向けてくる。図書館にずっと引きこもっている根暗な奴で、同じ分霊のオレでも出会うのはおよそ三百年ぶりだ。まあオレ自身もエクステリアの管理で引きこもっているようなものだが。
「今日のために各世界最高峰の肉を仕入れてもらったんだぞ?これが落ち着いていられるか」
それにこの肉は一塊でオレの月収が全て吹き飛んでしまうほどの超高級品だ。それがタダで食えるっていうんだから乗らない手はない。そうでなければこんなパーティー兼同窓会など参加するものか。
「お前も本読んでないで少しは手を進めろよ。普段飯も食わず栄養剤ばかりなんだろ」
「……ここ最近は食堂から取り寄せてるよ」
「マジかよ」
働くために食う考えのコイツに食事はエネルギー確保のための手段でしかない。なので朝昼晩これさえ取っておけばいいとリーゼロッテ特製の栄養剤を飲んでいると聞いていたが。
「遅れてごめんね」
開会のあいさつを終えたアルクが両手に料理を持ってやってきた。オレはテーブルに届かない彼の料理を拾ってやった。
「お、カーヴィンのスーツ姿いいじゃん似合ってる似合ってる。ミニエルは……獄吏服もいいけどたまには別のもの着てくればいいんじゃないかな」
「お前はお母さんかよ」
「あの子に任せたら三時間もかかったよ」
給仕に皿を片付けてもらい次の肉を注文する。個人的には小さな肉を少しずつ出されるより大きな肉塊にかぶりつきたいものだ。しかし過去に一回度を越したことをやり料理人を困らせただとかでアルクに追い出されたことがある。
今ならその理由が少し分かる気がする。だからといって注文数で妥協する気はないが。
「にしてもお前また小さくなってないか?オレの半分くらいの背丈になってるじゃねーか」
「最近また力を使うことがあってね。流石にこれ以上は無理かなー」
元々アルクはオレ達と同じ背丈だったのに今となってはウチのガキ共と同じサイズになっている。それでも思考能力などは変わってないので奴らよりは遥かに面倒な存在だ。
「おっ、来た来た」
注文した肉料理が次々と置かれていく。これでオレの給料一年分は頼んだだろう。
「ん?おいこんな大量の野菜炒めなんか頼んでな……い……」
オレはそれを見て体が硬直した。周辺の気温がガクンと落ちたような錯覚に襲われながら彼女の顔を凝視していた。絶対に目を離してはいけない。目を離したら殺られる。何故か分からないがオレはそのような観念に駆り立てられていた。
「やあシャル、そのコック服似合ってるね。ミニーとは上手くやれてる?**って少し前にも聞いたか」
アルクが酒を次々と開けながら彼女に絡み始めた。こいつの呑気っぷりは天然なのか、それともわざとやってるのか。どっちにしろやめろ!それ以上こいつの神経を逆なでしそうなことはよせ!
「ありがとうございます。おかげさまで、ミニエル様の元で一心一意勤めさせていただいております」
彼女はにこやかな顔でアルクに感謝の意を表しカーヴィンにも軽く頭を下げたのち、静かに持ち場へ戻っていった。オレはその姿が見えなくなるまで見守ったあと自然と止まっていた息を吐き出し、荒い息のまま近くに置いてあった水を飲み干した。
「こ、こんな恐怖でちびりそうになったのは初めてだぜ」
「とばっちりでぼくの寿命も千年くらい縮まった気がするよ。君は彼女に一体何をしたのさ」
カーヴィンも青い顔をしてオレに聞いてくる。一方アルクは酒が効いてきたのか顔が赤みがかっていた。
「今日の朝パーティーに行くぞと言ったくらいだと思うんだけどな……」
「それだけ?」
「あとは……なんか準備にかなり手間取ってたな。仕事の服はこっちで支給されるのに何に時間かけてたのだか。ってどうしたんだカー」
カーヴィンは手を頭にやり天を仰いでいた。オレは何かやらかしてしまったのだろうか。
「ミニー。乙女心は知っておいたほうがいいよ」
「どういうことだ?おいはっきり言えって!」
カーヴィンはオレから言い逃げるようにドリンクコーナーへ歩いていった。
「何だってんだ……」
一人取り残されたオレは釈然としない気持ちでシャルが残していった野菜炒めをひたすら消化していった。幸いとても美味いので飽きることなく完食することが出来そうだ。
「あ、あのー、お食事中申し訳ないのですがミニエル様」
「ん?」
半分くらい食べたところで進行をしていた男がおずおずと話しかけてきた。
「そろそろ抽選会の時間なのですがその……」
彼がちらりと目を向ける先にはグラスを片手に熟睡するアルクの姿があった。全然会話に混ざらないなと思ったら酔っ払って寝てやがったのか。でもこいつを無理に叩き起こすとここに来てる奴ら全員の命が危ういしなあ。
「じゃあカーヴィンにでも**無理そうだな」
奴はドリンクバーの前でリーゼロッテに絡まれていた。あいつの熱烈なアプローチは数少ないカーの悩みの一つだ。
「……しゃーねえ、オレがやるか」
ちょうど完食したしな。
進行役からマイクを奪って壇上へ向かう。オレが抽選箱の前に来る頃には辺りはすっかり静まり返っていた。
「アホが寝てるからオレがくじ引くな。当たった人はさっさと来るようにー」
割れんばかりの大きな歓声が会場に轟く。今まではこういったイベントは事務的にしか見られなかったが、最近になってはしゃぐ奴らの気持ちが分かってきた気がする。
だけどみんなには悪いが一等賞以外はオレたち分霊、また管理者からしては割とどうでも良かったりしている。
「五等、十七番。賞品はドラゴンローブ三着」
オレは次々とくじを引き当選者に賞品を手渡していった。全員嬉しそうな顔でもらいに来るのを見ているとこっちも嬉しくなってくる。ただし二等の『マーベラスの摩訶不思議九ツ道具』だけは相手も微妙な顔だったしこっちとしても本当に渡して良いものか悩んだ。
さて、次が今回のメインだ。眠ってるアホを除く分霊と管理者、またはその代理の全てが壇上に揃う。一等の賞品はそれほどのものだと嫌でも自覚させられるだろう。
「……一等、一万二千番。壇上へ」
静寂の中コツコツと段を一定のリズムで上る足音が近づいてくる。あまりの緊張からか近頃のロボットでもしないようなカクカク動きをしながら当選者はやってきた。
今すぐ手を伸ばしたくなるような黄色の髪とそこから生える触角。身長の低さも相まって最初はうちのガキ共かと思ってしまうほどだった。アイツらは来てないのでそのような可能性など微塵もない共分かっていても、だ。
「はい、じゃあ軽く自己紹介ー」
「て、テトラトリィ・ペンタムと申します。まだ勤務して百八十年ほどのログみなな……ログ見習いですっ」
彼が舌を噛んだところで会場が朗笑の渦に飲まれる。本人も耳の先まで真っ赤に染め上げてしまっていた。
念のためカーヴィンにも目で確認をとると大丈夫だというサインを送ってきた。ログはアイツの管轄で元々人手不足気味なのだが致し方無しといったところのようだ。
「さて一等の賞品だが、この紙切れだ」
オレはカーヴィンが隣で最終調整した紙片を彼に突き出した。案の定、本人は首を傾げ場内にもざわざわと騒ぎ始める。
「その、達筆すぎてミニエル様とカーヴィン様の名前しか読めないのですが」
「ははは、正直に汚すぎてと言ってやれ。アルクの文字は解読が必要なくらいだからな」
公的文書、しかも超重要な物なのに、いつもの汚い字や紙切れ一枚で済ませるのは流石アルクといったところか。決して褒められることではないがアイツの自由っぷりは少しだけ羨ましく感じる。
オレはそのまま紙片をテトラトリィに押し付けた。まさかこんな頼りなさそうな奴が当選することになるとはな。しかしその分成長も見込めるのでこれもまた面白いかもしれない。
オレは期待とちょっぴりの同情をこめて、訳も分からず当惑している彼の肩をすれ違いざまに叩いた。
「おめでとう。今日からお前は新しい管理者だ」
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