マーベラスの製品にご用心改革
私は最後の乗り物、観覧車に乗っていた。ゴウンゴウンと小さく音を立てながらゴンドラが上っていく。他のアトラクションに比べれば風景を楽しむことくらいしか無いシンプルなものだが、私は遊園地の中では一番好きだ。
普通の遊園地ならば、だが。
「まだよ、まだ油断しちゃダメ……」
半分くらい上がったところで私はゴンドラ内の調査を終え、一度気持ちを落ち着かせた。そうだ、今更足掻いたところで何も変わりはしないのだ。もう乗ってしまったのだから、この回転する逃げ場のない棺桶に。
このように覚悟を決められるようになったのもマーベラスのおかげだ。ギロチンやグラインドカッターがスレスレを横切っていくコースターや回せば回すほど幸せな気分になれるコーヒーカップ、コースの壁に当たったら電流が流れるイライラゴーカートなどのアトラクションを経験してきた私はもはや並大抵のことでは動じない。と思う。
これがただのマッチポンプだと理解し始めるのはもっと先のことになる。
「おーい」
「ひゃひ!?」
ついに何か仕掛けが作動したのかとぐるりとゴンドラ内を見渡すが特に変化はない。じゃあさっきの声は一体どこから?
「こっちだこっち」
「え?」
ゴンドラの外にミニエルがぶら下がっていた。驚き呆れる私をよそに彼は扉をこじ開けて向かいの席に腰掛ける。左腕にはフードコートのドリンクを抱えていた。
「よおオヒメサマ。仕事サボって遊んでるのかい?」
「……楽しんでるように見える?」
「ぜんっぜん」
私がアトラクション巡りをしていることは既に彼は知っている。本当、他人をからかうのが好きなボスだ。
「それで、何か用でもあったの?」
「特に用はないな。ちょっと息抜きさ」
そういえば昨日は罰を行った時以外、ずっと所長室に篭っていたと聞いた。顔には出さないがその忙しさに疲れているのかもしれない。
「何か手伝えることがあったら言ってよね?」
「お、おぉ……」
ぼんやり外を眺めていた彼は少し恥ずかしそうに頬を掻いた。
「ついさっきマルクとメルクがオレのとこに来てな。予算を計上してくれって言ってきたよ」
「予算を?」
「ああ。解体作業や建築作業にいつも以上の金がかかりそうなんだと。いつもならマーベラスの奴が半分払ってくれるが、今回は全部自分たちでやるとさ。おかげでまた計算し直しさ」
「……ごめん、忙しそうなのに」
二人が協力してくれていることはとても嬉しかった。しかし結局、私はミニエルに迷惑をかけてしまっている。
「本当困ったもんだぜ。あーあ、これはお前にそれ相応の償いをしてもらわんとなあ」
「え?う、うん……」
「よしっ、じゃあ明日は予定空けとけよな」
ほぼ一方的な会話を終えた彼は扉を再びこじ開けてどこかへ翔び去っていった。開けっ放しの扉からゴンドラ内に冷たい空気が流れこんでくる。高くて怖いし閉めたいのだが私の力では不可能だ。
「空返事しちゃったけど大丈夫かしら……」
明日の心配をしたところで今私にできることは何もない。どこか近くから漏れる絶叫を聞きながら私は残りの時間をぼんやりと過ごした。
短くも長いゴンドラの旅と終わりを告げ私は地上に降り立った。最後のスタンプを押してもらい、私のスタンプラリーは完成する。台紙を広げてみると、マスコットのドット絵が今までの足跡によって可愛らしく再現されており私は嬉しい気持ちになった。
「実物はこんなに可愛くないのになあ」
罪人たちの中にも今までこれに挑戦した者もいたが全員途中で投げ出したという。よって、おそらくこのスタンプラリーを埋めたのは私が初めてだ。そう思うと唯一無二のこのドット絵を私は愛おしく感じた。
「今日はハンバーグにしようかな」
私は台紙を天に掲げながら夕食のメニューを決定した。私の得意料理の一つであり、マルクとメルクの大好物だ。
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