小さい頃から前世という記憶がある俺は、幼少期にその記憶を話した事もあり、周りからは変な目で見られた事もある。
それを学習した俺は自分だけが変なのだろうか、と心にモヤを抱えていたが、ただの偶然かはたまた神様の気まぐれか、太宰と安吾とは同じ学校に入学し、出会いを果たしたのだ。
今はこうやって昔の事を話す事が出来、それなりに充実していた。
一つ心残りがあったのは、前世の時に恋人関係だった彼女の事だった。
最後に言葉を交わしたのが子供達の所に行ってくる、という報告だけだった。
その後、太宰から俺の訃報を聞かされたのだろう。ここは憶測でしかないが。

その日、俺は太宰と安吾と別れを告げ、家路に就いていた
雨が降っているにも関わらず、なんとなくいつもとは違う道に行ってみようと思い足を動かした。
これまた偶然なのか、どしゃ降りの雨で視界が悪い中、傘が無く雨宿りしてるであろう女が目に入った。
懐かしい雰囲気だな、と思いながら歩きすれ違う寸前その女を盗み見た途端、足が止まった
「名前・・・?」
その女は前世恋人関係だった女なのだから。
呼ばれた女、名前は俺の顔をじっと見つめ、少し顔を歪ませた
ああ、こんな所に居たのか、探したんだ、頭の中ではたくさんの言葉が浮かび上がってきた
「あの、」
名前が声をかけてきた。俺は傘を投げ雨に濡れた冷たい彼女を抱きしめる。こんなに冷えては風邪を引いてしまう。でも、一言言いたかった
「あの、ちょっと!」
「名前・・・やっと見つけた・・・」
声が少し震えてしまった。悟られてはいないだろうか。彼女は昔からあまり表情の変わらない俺の事をよく理解してくれていたからもしかしたら気づかれているかもしれないな、などと考えつつ抱きしめる力を強める。とても愛おしく感じたが、彼女の現状をもっと知りたいのだ。名残惜しくも彼女から離れる。
「名前、ずっと会いたかった・・・探していたんだ」
「今から時間はあるか?今のお前の事をもっと知りたいんだ。」
「いや先に言う事があったな。お前に寂しい想いをさせてしまった。先に逝った俺を許してはくれないか?」
彼女は何も言わない、怒っているのだろうか、拗ねているのだろうか。喧嘩した時は口数が少なくなる彼女の返事を待つ。
「貴方は、誰ですか?」
まだ雨は止まない