「手前が好きだ」
俺が17歳の時、初めて告白された相手は男だった。
その男は俺より1つ下で、ポートマフィアに入って1年しか経ってない経歴だけでも見ればペーペーの奴だ。男自身は元々は羊のリーダーだった事もあり腕っ節は立つしめきめきと力を付けていき、姐さんの下から既に巣立ち先刻収束した龍頭抗争では多大なる成果を残していた。
戦力しても問題無い上、男の外見は巷で云うイケメンといった美丈夫の部類だ。身長はまあ周囲よりかは低いが、恐らくこれから伸びていくだろう。姐さんから作法や立ち振る舞い方なども教わっている為、普段は喧嘩っ早いが女の扱いに長けてる方だ。女からモテない方が可笑しいこの男が、いつもと変わらない表情や態度で好きだと云ってきたのだ。
「は?何かの罰ゲームか?」
タチの悪い冗談だと本気にせず、笑って流した。そう云った後の中也は衝撃が走ったような顔で俺の事をじっと見つめ、すぐに「何でもねぇ」と云ってそのまま去って行った。俺は中也を呼び止める事もせず「じゃあな」と云って彼を見送る。全く冗談に付き合わされるこっちの気にもなって欲しい、最初はそう思っていた。

「なあ」
「ん?」
「好きだ」
「そりゃどーも」
中也は、顔を合わせればことあるごとに俺に愛の言葉を囁いた。普通に雑談するように、特に表情を変える事もなく淡々と伝えてくる。未だに罰ゲームが続いているんじゃないかと考えていたのだが、何度目かの告白の時に冗談も程々にしろと頬と突いてこちらがからかってやろうと、中也の顔を正面から見てみた事があった。
「ったく冗談も程々に―――」
彼の表情を見た時、俺は伸ばした人差し指が中也の頬に到達する前に不自然に止まってしまった。
彼は、ただただ真剣で俺の目を射貫いたからだ。表情が変わっていないのではない、中也はわざと俺の顔を伺う事をしていなかったのだ。今までの告白を思い出せば、全て中也は俺の顔を見て話してない事に気づき、硬い声で話すものだからいつも通りなのだと自分自身が錯覚していたのだ。初めて見た中也は、気難しそうに眉間に皺を寄せ瞳の奥に欲情を隠す恋をした男の顔をしていた。
それから俺は、冗談だの罰ゲームだのと彼を否定するような言葉を止めた。

最初の告白から1年以上が経過したが、俺達の関係は特に変わりはしなかった。いつも同じトーンで告白され、そのまま流す。そんなある日の事だった。
「で、手前はどうなんだ」
「え?あー、考えた事無かったな」
冗談で無い事に気付いたが、本気で中也と付き合う事など考えた事無かった。どうせ若気の至りで善い女が居ればそっちに靡くであろうと真面目に取り合っていなかったので、逆に質問されるとは思いもしなかったのだ。
「は?こんなに俺が云ってるのにか?」
「まあ…」
「…あっそ」
それ以上特に追求される事も無く、次の日からまた一方的に愛を囁かれるだけになった。

姐さんの下で働いてる俺は、彼女に誘われ茶を飲んでる時であった。
「して、どうするのかえ?」
「どう、とは?」
「中也の事じゃ」
「は、」
まさか姐さんに聞かれるとは思いもしなかったので、動揺しながら彼女をじっと見つめる。きっと今の俺は驚いた顔をしてるのだろう、クスクスとやけに愉しそうに笑みを浮かべる彼女をじっと見つめ、やがて彼女の口が開いた
「そろそろあれが可哀想じゃ」
「可哀想?」
「お主、未だ返事をしておらんのじゃろう?」
「…まあ」
「あれの気持ちに応えるにしろ、応えないにしろ、それはお主の自由じゃ」
「はあ…」
「じゃがのう、そのまま放置は善いとは思えん。応えぬならさっさと伝えよ」
「…そうですね」
俺はその日から中也の事を考えてみる事にした。

今日は中也と共に任務に行く事になった。
とは云っても異能も何も持たぬただの一般人故に、他の構成員も共にであるが。
異能無効化である太宰が中也の隣に居る為、恐らく俺達含む構成員は主に取り零した敵の殲滅と、力を使い果たした中也の回収になるだろう。俺は銃を手に持って動作を確認していると、目の前に中也が立っていた。
「名前」
「ん?」
「手前が好きだ」
「ん。」
任務に戻れと腕を軽く叩けばやがて位置に着いたようで、彼ら2人の後ろに付いて行っては敵陣に突入した。

俺も中也も生きて戻れたなら、こいつが目を覚ました時に云ってやろう。
「俺もだ」と。