※芥川の女子力が高い上にキャラがつかめてません


季節は冬。息を吐けば白く染まり、吸うたびに冷たい空気が肺に入ってくる。
ああ、もうこんな季節か、としみじみ感じながら弁当を持ち、中庭の一角の椅子に座る。
ここは人通りも少なく、賑わう生徒の声も届きにくい。穏やかに過ごすには絶好な場所なのだ。日陰になるので多少寒くはなるが防寒具を持っていれば特に問題は無いだろう。
ぼんやりとしていると先輩、と声を掛けられそちらを向く。
その男―芥川龍之介の片手には弁当が握られていた。
芥川もお昼時にはここに来ている事が多い。あまり騒ぎ立てない彼なのでいつも騒がしい教室に頭を痛めているようだ。
隣にスペースを空けると、そこに座り膝の上に弁当を広げだしたので私も広げる
「寒いね」
「そうですね」
「友達と食べないでいいの?」
「今日はここで食べたい気分故」
世間話をぽつぽつと話し出しながらそういえばこの男と出会ったのもここだな、と振り返った


季節は春。確か入学式が終わって1ヶ月経った位だったか、私はいつもの如く弁当を持ち中庭まで足を運んだ
いつもの場所に近づくにつれ、変な音を立てながら咳き込む声が聞こえた。
体調不良者なのだろうか、と考え辺りを見回すといつもの一角の椅子の前に蹲っている男が居た。
「あの、大丈夫ですか?」
声を掛けるが返事は無い。とりあえず弁当は椅子に置き食堂の自販機まで走り水を購入する。
冷たいものはあまり良くないのだろうか、などと頭を悩ませながら戻り、男に渡した
「水買ってきたんですが飲めますか?」
「ゲホッすまない・・・」
絞り出すような声を出して水を受け取った男はゆっくり時間をかけて水を飲んだ。
昔体調不良になった時に母親がよくやってくれたのを思いだし、幾分か気が紛れるかと思い飲んでいる間に背中に手をやりさする。
水分補給のお陰か、咳もだいぶ収まった。背中をさする手を止めて声をかける
「大丈夫ですか?保健室行きます?」
「否、いつもの事だ。行かなくてもよい」
「え、そうなんですか?」
「すまない、迷惑を掛けた」
男は椅子に座る。咳をするのは結構な体力が奪われるのだろう、それが長ければ尚更だ。
少し顔色が良くなっている事を確認しつつ、私ここに来た目的を果たすべく男の隣に座り、膝の上に弁当を広げる
「いつもここで?」
「ちょこちょこ来ますね」
「そうか。僕も、ここで食べても?」
「あ、はい。どうぞ」
男も手に持っていた弁当を膝に広げ始め、自己紹介を始める。
男の名前は芥川龍之介、1年だそうだ。私の1つ年下である。
私が学年を言うと驚いた顔をして「先輩、でしたか」と敬語に正された
「芥川君はどうしてここに?」
「教室は騒がしい故、何処かで昼食を食べようと探していました」
「確かに高校生ってパワーあるもんね」
「騒がしくて仕方ありません。頭が痛い」
「芥川君大人しそうだもんね。ひょろっひょろだし。ちゃんと食べてる?」
「貴女よりは」
その後は成り行きで連絡先を交換し、たまにご飯を食べる仲になった。
行事関係で見かけるとよく話すが、体育祭の時はお互い頑固な所があるから結構競い合ったなあ。

「先輩、箸が止まってますが」
昔を思い出していたらどうやら箸が止まっていたらしい。
何を考えていたのです、と問いただされ素直に白状した
「芥川君と初めて会ったのここだったな〜と」
「・・・ああ」
「あの時はビックリしたよ。・・・よし、先輩が何かおごってあげようではないか!何飲みたい?」
「唐突ですね。温かいものならば」
「買ってくるよ」
と言って食べかけの弁当を椅子に置き、食堂に向かう。温かいものと言われても芥川君の好きそうな飲み物が分からず、とりあえずココアを選んでおいた。
足早に戻り、芥川にココアを手渡す。寒いのか手の甲辺りまでセーターを伸ばし、ココアで指先の暖を取っていた。
いわゆる萌え袖だ。女子力高いな、と芥川を横目で眺めつつ弁当をつついた。
「ん?卵焼きが減ってる」
「いい塩加減でした」
「お前か」
「無防備に置かれてる故」
「今度芥川君の卵焼きちょうだい」
「僕から卵焼きを取れるとでも?」
ふふん、少しだけどや顔をする芥川のココアをぶん取り、片手だけ暖を取り1つ少なくなった卵焼きを食べる。
それは僕の、!と抗議しているが何処吹く風と聞き流していると、すぐにココアは奪われた。
もう少し暖を取りたかったが仕方ない。食べ終えた弁当を袋に包む。
カチャッとプルタブを押し上げ缶を両手で持ちながら飲んでいる芥川を見ていると、猫舌なのか「熱っ」という声を上げていた
笑みを零すと少し拗ねた顔をしながら、笑わないで下さいと言われた。
今日も後輩がこんなにも可愛い