何となく気づいては居た。
他の人と接する時の態度、喋り方、目線、
―――笑顔。
中原中也は私に対しては甘い。
彼は恐らく私を好いているのだ、と思う。


ポートマフィアの幹部候補として働き、早数年
特に上に行くつもりは無かったが、異能力所有者、暗殺、撃ち合いの生存率の高さによってここまで登り詰めた。
幹部候補の為か私に回ってくる重要な責任が伴う仕事は多い。
その中の1つの資料をお昼のサンドイッチを片手に読む。
「おらよ、」
ぬっと横から視界に飛び入ったオレンジ色の缶ジュースを目で追い、後ろを振り返る。
そこには悩みの種の1つである人物が私を見ていた。
「中原君」
「おう」
「有難う御座います」
そういえばお昼ご飯を購入はしたが飲み物は買ってなかったな、とデスクの上に目線を逸らし、両手で受け取ったオレンジジュースを有り難く頂く。
カシュッと音を立てプルタブが開くのを確認し、喉に流し込む
オレンジ独特の甘さ、冷たさにより少し頭の回転が速くなったように錯覚した。
隣の椅子をカラカラと持ってき、ドカリと座ってこちらを見てくる彼を視界の端で確認しながら資料に目を戻した。
「・・・何だ、仕事でも失敗したか?」
片手に珈琲を持ちながらデスクに肘をつき茶化すような声色だが真剣にこちらをジッと見てくる彼に目を向ける
「いえ、してませんが」
「じゃあその陰気臭ぇ顔やめろ」
「・・・私は元々こんな顔つきですが」
「はっ、言ってろ」
まあ少し眉間に皺が無意識で寄っていたかもしれないが、だいぶ酷い事を言われた気がしたので反抗心で少し睨みがちで彼を見る。少し楽しげな目つきでこちらを見つめながら頭を小突かれた。
「難しけりゃ手ぇ貸してやる」
そう言うと彼は椅子から立ち上がり、踵を返す。
珈琲片手に持った彼の後ろ姿に有難う御座いますと声を掛けると振り返る事なく手をヒラヒラ振り部屋から出て行った。
それを確認し、もう一度資料に目を通すが、先程小突かれた頭がじんわり熱を持っているような気がして、その部分を片手で抑えた。


任務前に、何となく、顔が見たくなった。
特に用事も無いのに、彼をよく見かける廊下に勝手に足を運んでいたのだ。
自分でも今までそういった考えをする事は無かったし、無意識に廊下に来ている自分でも戸惑った。
こっちはビルのロビーではないのに。何を考えているんだか。
ふと足を止め、ため息をつく。自分の行動の意味が分からなかったからだ。
くるりと進行方向を変え、ロビーに向かう。恐らく今日一緒に戦う人達が待っている。
一歩足を踏み入れた。
「お」
「!!!」
聞き慣れた彼の声に反応し、バッと後ろを振り返った
「何だ、これから仕事か?」
「中原君・・・ええ、これからちょっと」
「そーかよ。気をつけろよ」
頭に手を置かれ、胸がざわつくと共に安心感を覚えた
「中原君」
ああ、まるで私がー
「さようなら」
恋をしているようではないか




ぽろっと口から出たさようならの言葉に、これからもう会えないような、そんな錯覚に陥った。
実際そうなった
この後の任務で、彼女はポートマフィアに帰ってくる事は無かった――――