姿を隠す下
太宰と名前は少しして解散した。名前の仕事が切羽詰まっていた為あまり猶予が無かったのだ。「厭になったらいつでも探偵社においで」といった勧誘と、また会う事を約束してお互いの持ち場に戻った。
それから名前は仕事に奔走した。中也は今日が締め切りの1枚の書類がまだ終わってないようで頭を悩ませており、その後首領に提出しに行けば報告で時間が掛かる。名前は元から中也は戦力外として、手が空いている他の構成員にも仕事を割り振って書類を捌いていく。
陽も傾き始めた頃、少し休憩に入った。書類もだいぶ捌けていたので少しは猶予があるだろう。後ほど中也を探し出して書類を持たせようと考えながら肩をグルグル回す。
飲み物でも購いに行こうと財布を持って席を立つ。その際、中也の印象を聞き回っているという人に答えた名前は、そういえばと先刻太宰に云われた言葉を思い出す。太宰曰く、中也は彼の住所を言いふらしているらしかった。例え苦手な相手だったとしても、個人情報を流すのはいけないと思う。
「ちょっと中也探して来ます。」
ちゃんと中也に言い聞かせねばと名前はその場を去り、中也を探した。
「中也―!」
「おーい、中也―!」
「何処なのー!ねー!」
「…もうっ」
名前はポートマフィアのビルを駆けた。弟分である中也を探しだし、彼に問い詰めねばならない。名前は彼の居そうな所を1つ1つ虱潰しに探してみるが、すれ違ってしまったのか全く彼の影は無い。
中也は昔から名前の事を見つけるのが上手かった。対して名前は基本的に中也から来るので探す必要も無く、彼がどう行動しているか考えた事も無かった。
その時はっと思い浮かんだ。そういや、中也は書類の提出で首領の元に行っていた事を。
まだ時間が掛かっているのだろうと考えた名前は、中也が姿を現すまで仕事をしようと踵を返した。
その頃、中也は名前が己を探してくれるのを待って居た。
先刻、自分自身の印象を聞いているという人間が訪れ、名前の印象を聞いた時に自分を探していると云われたのだ。きっと今頃見つからない自分に痺れを切らしているのだろう。中也はにやける頬を抑えきれなかった。
中也は名前が好きだ。それはもう子供じみたものでは無い。一種の執着心である。名前は自分の事だけ考えていれば善いし、自分の事でいっぱいになって欲しい。そういった独占欲から今回姿を隠す事を考えた。俺を見つけた後の名前はどういった反応をしてくれるだろうか、例え叱責の言葉だったとしても久しぶりに面と向かって自分に何かを伝えようとしてくれるであろうそれが嬉しかった。自分だけを映してくれるのが嬉しいのだ。
だが中也は気づかない。人生そう上手くは行かない事を。ちょっと面倒臭がりで合理的主義な名前が取るのは中也ではなく仕事だという事を。
怒鳴られるのを承知で姿を隠して1時間は経過しただろうか。中也は首を傾げた。さすがにここは探してくれないかと仮眠室から出て辺りを見回す。己の名前を呼ぶ声は聞こえない。
「あいつ何処行きやがったんだ…」
もしかしたら自分を探す為に遠い場所まで行ってしまったかもしれない。中也は頭を掻きながら一旦仕事場に戻る事にした。
「…あ?」
名前はすぐ見つかった。未だに残ってる仕事を終わらせる為に手を動かしていた。
何故だ。中也は思った。先刻、印象を聞き回ってるの人間の言葉からしたら名前は俺を探してる筈だ。中也は憤怒した。
「何で俺の事探さずに仕事してんだよ…!」
「あ!中也!ちょっとそこ座りなさい!」
「うるせえ!手前の指図なんか受けねえ!」
完全なる八つ当たりだ。中也は苛立った様子で自分の席に戻り、不貞腐れた
「反抗期しない!太宰君の住所教えてるって聞いたけど本当なの?」
「うるせえ!」
「質問に答えて!」
「知るか!」
「何でそんなに不貞腐れてるの…」
手前のせいだよ。中也は言葉にしないまま名前と子供のような口喧嘩を始めた。