姿を隠す上

(周りから見た中也のイメージ22歳の続き?)

太宰治が探偵社に入社した前後は自身の居所を悟らせない為に全ての連絡手段を無くし身を潜めていた。その時期は連絡を途絶えさせていたのだが、縁が巡ってポートマフィアに身を置いている名前とまた繋がりが出来た。
中也が居ない時を見計らって連絡先を入手し、太宰と名前は連絡を取り合う仲となっていた。ポートマフィアと探偵社、対立する組織ではあるがそんなのお構いなしに会っては会話をして別れる、至って普通の友人のようにお互い振る舞っていた。
まあ、それは名前がほぼほぼ事務仕事しかしてない人間であり、幹部に近い人間や事件や事故を起こしている人間でも無い為顔が割れていない故である。これが芥川相手であれば警察も黙ってはいないだろう。
一応周りにバレれば大目玉を食らうかもしれないという事で、会っている事はお互い黙秘している。太宰の周りは別に彼の交友関係には興味など無い。模索される事も無ければ彼自身に興味が無いと云っても過言ではない。女性関係なら尚更である。対して名前はというと弟分である中也が黙っていないのだが、名前が面倒事を回避する為にその場で言いくるめ適当に流している。

太宰治は中原中也の印象を話した後、名字名前宛てにメールを入れた。内容は「ちょっと会って話がしたい」といった簡易的な連絡だ。
仕事柄比較的外に出る太宰はさて置き、事務仕事を主体とする名前は外に出る機会が無い。その上、あまり時間が取れない程積み重なった書類が目に入った。中也が溜めに溜めたその紙を見るに相当時間が掛かる。息抜きの休憩時間などあまり取れそうに無いし、そもそも引きこもりの人間が仕事を放り投げていきなり外に出るとなれば怪しさ満点だ。名前は太宰の話に乗る為、何か聞かれた時の云い訳を考えた。
1時間割り振られている昼休憩ならば問題無いと。
名前は善は急げと云わんばかりに太宰に返事をした。「何処かでランチをしながらであれば問題無い」と。今日は弁当など作ってもいないし、何処かで食事を摂らないといけなかったのでコンビニなどで考える手間も省ける。名前は返事を待たず財布の入った鞄を肩に引っさげてポートマフィアのビルから出ようとし、1階のエントランスまで来た時だった。
「おい名前、何処行くんだ?」
中也だ。いつもと違う行動をする名前を見過ごす彼では無い。
「ちょっとご飯買いに行こうかなって」
「俺も行く」
「中也は先刻購ってたじゃない」
「手前に何かあったら問題だろうが」
「善いって。それより書類を片付けてくれた方が助かるし」
いつもは断らない名前がここまで粘るだなんて。中也は怪しんだ。
「後でやる」
「とか云っていつもやらないでしょ。中也の性格はもう十分知ってます」
「うっせえ、やるったらやる」
「じゃあ今すぐ証明してよ」
「それより手前の飯購いに行くのが先だろ」
「…中也のデスクにある右上の書類の束、締め切り今日までだよ」
「うっそだろ早く云えよ!」
「頑張ってね〜」
「あ、おい!名前!…チッ」
名前はその場から逃げ出すように走り去り、中也は追いかけるか書類をするかの葛藤の末、何枚あるか定かでない書類を捌きに行く事にした。
ちなみに余談であるが、締め切りが当日までの書類は1枚しか無く、これだけなら名前の方を追いかけるべきだったと悔やみその際に握り潰したボールペンを1本無駄にした。

太宰は名前の優柔不断な性格を知っていたので、きっと一任するだろうと返信が来たと同時に適当な飲食店に入っていた。数分遅れてやってきた名前にここに居ると手を上げて存在を示す。
「やあ名前」
「遅れてごめん」
「私も今来たとこさ」
「どれ食べるか決めた?」
「名前と一緒に決める方が楽しいと思ってまだだよ」
「そう?どれにしよっか」
太宰は女性と接するようにキザな言葉を発するが、名前は全く動じないで返事をする。そんな所が面白いと笑みを深め、小さいメニュー表を共に眺めてはあーでもないこーでもないと2人で云いあい、やがて店員に注文した。
「で、どうしたの?いきなり呼び出して」
「友人を呼び出すのに理由は必要かい?」
「んーや、無いよ」
「まあ、久しぶりに君の顔が見たかったというのはあるけど」
「私も太宰と会えて嬉しいよ」
「嬉しい事云ってくれるねぇ」
久しぶりに自由に会話が出来た2人は、お互いの近況報告や親睦を深める為に語り合った。食べたキノコが毒キノコであったやら、最近の中也の話、お互い敵として奔走した三者鼎立の話。話題が尽きる事は無かった。
「そうだ聞いてくれ給え、中也が私の厭がらせで住所を言いふらしているみたいなのだよ!」
「ふぇ?そん○※△■×」
「うん、食べ終わってからで善いよ」
「ん…で、中也が太宰の住所言いふらしてるの?」
「そうなのだよ、お陰で私の家に訪問が絶えない」
「…後で中也に云っとく」
そうしてくれ給え、太宰は内心ほくそ笑んだ