耳が生えちゃった?
任務で敵組織を壊滅させた後の事であった。
特に滞り無く終わった中也はポートマフィアの拠点に戻り、報告書を書かねばならないと足を進める。カツカツと革靴を鳴らし、足早に廊下を歩いているとすれ違う人に見られている事に気がついた。相手は2度見をしては驚愕した表情をしており、意味が分からないと機嫌が低下していった。早い所戻って名前の顔でも見れば問題無いだろう。中也は硝子張りの扉の前を通った時、ふと自分の違和感に気がついた。
「…あ?」
尾てい骨辺りから伸び上着を押し上げる、長い尻尾。
「は?」
咄嗟に帽子を取れば頭に生える獣の耳。
「…はぁぁああ!?!?」
中也の叫びは廊下を木霊した。
こんな姿名前に見せられない。でも報告書を書き上げねばならない。中也は苦渋の決断の結果、帽子を深く被って耳を隠し、肩に掛けてある上着に腕を通して懐の隙間から尾が見えないようにした。上着をきちんと着る事によって躯との密着度が増え横からは見えなくなったものの、後ろから見れば尾は上着を押し上げてどうしても見えてしまうのでなんとか片手で押さえる。異能で尾を操作をすれば善いだろうに、わざわざ手で押さえ端から見れば下着が食い込んで気にしてる人間にしか見えないが、残念ながら中也にはそんな発想は無かった。
中也は思い切って扉を開けて挨拶をした。こういう時に堂々としていなければ逆に怪しまれるからだ。
「お疲れ」
「幹部お疲れ様です」
「中也おかえり」
名前含め部下は忙しいのか中也をチラ見してすぐにパソコンに向かい合った。社畜気質な彼らに少し寂しいような、心底安心したような気持ちで自分の仕事を進めようと椅子に腰掛けた。
「あ、中也。この書類は中也の分だよ」
「ゴロゴロわゴロったゴロ」
「?なんか変な音鳴ってない?大丈夫?」
了承の声を出そうとするもその言葉を掻き消す程中也の喉が鳴った。「何だこれ」そう口に出すも自分の喉がゴロゴロと音を鳴らす。名前は体調が悪いのかと中也の事を心配した表情で覗き込んだ。
「体調悪いなら今日帰る?」
言葉を発してもどの道相手には伝わらない。中也は処分するつもりであった紙に【体調は問題無い】と書いて名前に見せる。
「本当?異変があったらちゃんと云うんだよ?」
既に異変は起きているのだが、中也はそれを伝えずに【分かった】と紙に書いた。この間も中也はゴロゴロという音を発しており、心底煩わしそうに顔を顰めていた。
名前が仕事に戻り中也から離れればその音は鳴り止んだ。中也はよく理由は分からないが、まあ仕事に影響は無さそうだと判断してそのまま仕事を続行した。
書類に向き合ってから数時間が経過した。中也は謎の音についての法則性がなんとなく理解した気がする。
その音は部下に対しては近づかれようが会話をしようが全く反応しなかった。対して名前と関わる時だけは何をするにしても音が反応したのだ。しかも結構大きな音で。理解したのはしたが、名前と関わらない選択肢など中也は無い。むしろ今まで以上に構って欲しいと思う気持ちが募るばかりである。
じいっと名前を見ている時だった。手元を疎かにしたせいか、書類にぶつかりヒラヒラと紙が舞う。目を真ん丸に見開き驚愕した表情でそれを目で追った中也はーーー
「にゃあああ!!!」
「にゃあ?」
紙に対して拳を食らわす、いわゆる猫パンチをしていた。他にも舞う紙に手をのばしてじゃれる姿は猫そのものであった。無我夢中になってる中也は帽子が落ちた事に気付かない。紙と遊ぶ中也の一部始終を見ていた名前は、気でも触れたかと床に落ちる紙を拾い集め、帽子の埃を払って中也に向き合った。
「中也、ほら…あれ、寝癖?じゃない…ん?耳…?」
「ゴロゴロゴロゴロゴロ」
「猫みたい…」
耳を引っ張って取ろうとしてる名前をそのままに、中也は「やっちまった」と項垂れた。
「取れないなら異能なのかな」
「ゴロゴロゴロゴロ」
「よーしよしよしよし」
名前はどうやら楽しくなってきたようで、中也の頭や顎の下を撫でた。顎の下が気持ちが良いのか、耳をピクピク動かし目を細めて顎を突き出す。
「ここが善いの?」
「んー…ゴロゴロ」
「ここに猫じゃらしがありますね?」
「おぉ…中也、ほれほれ」
「んにゃろ、後で覚えてやがれ…」
楽しそうにじゃれあう2人を見兼ねた部下が猫じゃらし片手に話しかける。それを受け取った名前は中也の前で猫じゃらしを振り、本能に抗えない中也はそのまま弄ばれる事となったのであった。