12.進路

はてさて、どうしたものか。
夕食時だった為かなんとか両親に見つからないまま刀を自室に持っていく事が出来たので、考えた言い訳を使う事なく竹刀袋に入れクローゼットの奥の方に隠す事に成功した。これで当分は見つからずに済むだろう。そして現在、私は自室で貰った名刺と分厚い資料を眺めてはうんうん頭を悩ましていた。正直言って役人の人が話してくれた事がいまいち理解出来ていなかったので分厚い資料を眺めている。
―審神者とは、眠っている物の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる、技を持つ者である。審神者は自身に秘められた力を使い、付喪神に分け与えて使役する。この秘められた力を霊力と言う。―
駄目だ、よく分からない。あまり難しい言葉を使われてしまうと元々無い脳みそがすぐに悲鳴を上げる。早々に資料を放り投げては名刺を見て役人の言葉を思い出す。
―審神者になれば君を保護出来るし遡行軍から狙われる事は無い。
それだけでも十分利点だろう。この先、今以上に強い幽霊…否、遡行軍が現れないという確証も無い。今でもだいぶ苦戦しているのにそれ以上強いとなれば確実に死んでしまうだろう。痛いのは嫌だし、このまま狙われ続けるのもだいぶ精神がすり減る。となれば答えは一択であろう。とりあえず分厚い資料をきちんと読んでから返答しよう。
「あ、その前にシロさん綺麗にしよ」
汚れても良い雑巾を引っ張り出して刀剣の鞘の土や汚れを綺麗に落としていく。さすがに刀身自体の掃除は難しいし自分の指をスッパリ切る可能性の方が高いのでそちらは出来ない。丁寧に拭い磨けばみるみるうちに元々の白さを取り戻していき、今までの状態がどれ程悪かったかよく分かる。洗面器に張った水が泥だらけで底が見えなくなっていた。

「やあ、数日ぶりかな」
「あ、こんにちは…」
役人と会話をしてから数日が経過し、今日は土曜日。あの後シロさんの汚れを落とし、丸2日掛けて資料を読んでから名刺に書かれた連絡先に返事をした。相手側の対応は素早いもので早速土曜日の正午に政府機関に来て欲しいと言われ、竹刀袋に刀を入れたまま出向いた。以前助けて貰った眼帯の彼―もとい燭台切光忠が出迎えてくれ、とある一室に通された。出されたお茶を飲みながら待っている事数分、ドタバタと大きい足音を立てながら部屋に入ってきたのは、以前事情聴取の対応をしてくれた役人であった。
「ごめんごめん、待った?」
「いえ、待ってないですよ」
「早速だけど本題に入るよ。まずは良い返事をしてくれた事に感謝してます。有難う。で、手続きだけど―」
まず、現在在学中という事もあるので高校を卒業した後に審神者に就任して貰う事。時間遡行軍含めた審神者の仕事について一切口外しない事など一通り説明され、契約書にサインをしていく。
「後、これは前例が無くて対応が不十分になると思うのだけれども…」
そう言って刀の説明をして貰った。
この刀は本体そのものであり、今まで前例が無いらしく、マニュアルに書いてる事がどこまで効くか分からないという事。そこで審神者として暮らしていく事によって報告書を別途提出して貰う事、提出すれば特別報酬が出るという事。
「分かりました。宜しくお願いします」
「ご両親には僕達から改めて連絡させて貰うね。じゃあ卒業後宜しく」
高校卒業後に迎えに来るという事で一旦話は収束し、政府機関のビルの出入り口まで送って貰った。

あれから数ヶ月が経過し、昨日高校を卒業した。そして今日、審神者に就業する事になり政府機関の審神者育成機関という部署近くの小部屋で待機し、担当の人が来るのを待っていた。
「お待たせしました、本丸に向かう前にまずはそちらの刀剣を顕現してみましょうか」
「あ、はい。えっと、どうやって…」
「相手に力を注ぐようなイメージでやってみて下さい」
パタパタ近づいて来た女性の担当に言われるがままに、竹刀袋に入れていた刀剣を取り出して腕の中に抱き込む。力を注ぐようなイメージってどうなのだろうか、こうかな?お力をお貸し下さいシロさん。
突如、周囲の空気が変わり、どこからともなくぶわりと風が吹いた。その風に巻き込まれるようにピンク色の何か…桜の花びらが舞い、辺り一面は桜吹雪でいっぱいとなった。
「よっ鶴丸国永という名だが、今代の主の前ではシロだ。俺みたいなのが来て驚いたか?」
桜吹雪の中心に立っていたのは、真っ白い刀の神様だった。

盗まれた刀剣の在処
(今は刀剣男士として楽しんでいます)