11.事情聴取

事件当時の話と言ってもなぁ…俺もあんまり顔は覚えて無いんだ。なんせ、夜も更けて辺りは真っ暗だったし帽子を深く被っていると来た。俺は霊体だから帽子を取る事も出来ないし、太刀は夜目が効かんからなぁ。ただ本体を追いかけるのに必死でそれどころじゃなかったのが本音だ。ああ、身長は大体これ位だったな。男だった。それ以外の特徴…うーん、これと言ったものは無いな!
その後の事?そうだなぁ、その男はさっきの神社に立ち寄って本殿裏の隙間に俺を置いて行ったな。それっきり来る事は無いまま俺はあの場で5年間という短い間だったが、それはそれは退屈していたんだ。喋る人間も居なければ遊ぶ道具も無い。神社近辺では時間遡行軍が彷徨いてるせいでそんなに遠くに行く事すら出来ない。いやまあこの姿だと本体から一定の場所までしか行けないんだが。
1回だけ遡行軍に見つかっちまったんだがな、その頃には既に主が狙われていてなぁ、そっちの方に行ってしまった。え?助けてなんかいないぜ、そもそも信仰が落ちて霊体の俺は本体すらも触れなくなってるし助けようが無いだろう。それは分霊である君らの仕事だろう?
確か4年前だったか?遡行軍に狙われた主がたまたま俺を見つけて俺を振るったんだ!あの小さな女子がだ、ここ数百年感じなかった驚きだったぜ!いやはや、刀として振るわれるのは良いものだなぁ、久しぶりに血が滾ったさ!何か…ん?犯人の話?だからさっきも言っただろう、本当に何も分からないんだ。展示されてた時に盗まれたんだ、他にも目撃してる付喪神が居るはずだ。三日月は隣に居たんだし、彼に聞いてみたらどうなんだい?他の付喪神からも情報を集めれば良いだろう。

薬研藤四郎の主である役人とI丸国永本体を腕に抱く少女が入った隣の部屋で、付喪神達の事情聴取が始まっていた。この場に居るのはI丸国永、燭台切光忠、薬研藤四郎の3振りだけである。
I丸国永から犯人の情報を聞いてみるが、彼も顔を見ていないようで決定打になるような情報を引き出す事が出来なかった。彼の言うように他の付喪神にも聞いてはみたのだが、全員が全員同じように帽子を深く被っていたので見ていないというだけで捜査は難航していた。
「こりゃ犯人探しは難しいようだな」
「そうだね、鶴さんが見つかっただけ良かったよ」
「シロさんだ」
「え?」
「俺は今シロさんなのさ。」
「え、どういう事?」
「主がな、俺の事をシロって呼ぶんだ。だからあの娘が死ぬまではシロって名前なのさ」
「へぇ、なんだか嬉しそうだね」
「そりゃそうさ!主が俺の為に付けてくれた名だからな!」
I丸国永は胸を張って喜びを露わにしていた。きっと顕現されていたのであればこの部屋は桜吹雪で塗れていた事だろう、そう考えると彼が霊体で良かった。桜吹雪で押し潰されるのは燭台切も薬研も御免だからだ。彼女に刀を振るわれた話を上半身を左右に揺らしながら嬉しそうにI丸国永がしていると、廊下からバタバタと足音を立てては薬研藤四郎の主である役人がこの部屋に入ってきた。
「やげーん!」
「大将か。どうした?」
「あの子と話が終わったのだが、I丸の処遇を聞かれてね。ここにI丸が居るんだろう?何か言ってる?」
「俺は主に着いて行くぞ〜」
「さっきの娘に着いて行くとさ。」
「そっか有難う。ああ、そうだそうだその前に。I丸は何処の本丸の刀だったんだ?審神者名を知ってるなら教えてくれ」
「大将、I丸の旦那は本霊様だぜ」
「盗難された鶴さん本体らしいよ」
「…は?え、え、待って、え?本霊様!?え!?うっそだぁ…」
「あっはっは!面白い反応をするな君!」
「まじか…本霊様、まじか…え、これどうすれば良いんだ…?」
「頑張れ大将」
哀愁漂わせながらも足音を鳴らしては部屋を後にする彼の後ろ姿をたいそう面白そうに笑っているI丸国永の笑い声がその場を支配した。