審神者名を決める話

無事付喪神を顕現する事が出来たようで、シロと名乗る全身ほぼ真っ白な神様は楽しげな表情を浮かべながら私の隣に腰掛ける。
「無事顕現する事が出来ましたね」
「あ、はい」
「次は審神者名を決めて下さい」
「審神者名…」
正直ネーミングセンスが無くて明日の私がなんとかするだろうと未だに決めかねていた。うんうん悩むもすぐに思いつく事もない。
「本名は…」
「駄目ですね。規約にも書いてる通り、名前というのはその人を縛る一種の呪いのようなものです。場合により主従関係が逆転します」
「で、ですよね…」
「名前を混じるのもおすすめしません」
「うーん…」
こうなるならもっと前からちゃんと考えておけば良かった、後悔してももう遅くただただ時間だけが過ぎるだけで全く名前を思いつく事は無い。審神者名は一度決めると変更する事が出来ないようで、妙な名前を付けてしまっても一生その名前で審神者をしないといけないらしい。これは変な名前など付けれないと逆にプレッシャーになり長い事頭を悩ましていると、好奇心旺盛な神様なのか部屋を彷徨いてははしゃいでいたシロさんが私に近寄って来ては助け舟を出してくれた
「主、決まってないなら白鶴ってのはどうだい?」
「しらつる?」
「嗚呼、俺にしちゃ良い閃きじゃないか?」
「うん…うん、そうですね、じゃあ白鶴で…」
「分かりました、ではこちらに記入を」
タブレット式の契約書に指で審神者名を書けば、隣に座っているシロさんが「おぉ…!」と声を出しては驚いた表情でジッと見つめる。
「何だこれは!指で文字が書けるのか!?こりゃ驚いた!」
「お、落ち着いて…」
「こんな面妖な事が出来るだなんて、主は魔法でも使えるのかい!?」
「いや、これは別にそういうものでは、」
シロさんは担当に渡したタブレットと私を交互に見つめながら大騒ぎしていた。現代で生きる私からすれば産まれた時には既にタブレットなど普及されていたので至って普通の事なのだが、神様であるシロさんにしては不思議な板に見えるらしい。
「登録が完了しました。」
「あ、ありがとうございます」
「本来ならば初期刀を選び顕現してから本丸に入るのですが、今回鶴丸国永様がいらっしゃるので彼を初期刀として申請させて貰います」
シロさんが大騒ぎしている間に登録を済ませたようでタブレットをテーブルの中心に置いた。その瞬間ビックリする程瞬時に動いたシロさんがタブレットを強奪しては画面を触っているのだが、それは電源を落としているため真っ黒でうんともすんとも言わず首を傾げている。そんな彼を見つめていると、聞きなれない名前を役人から言われて問うてみた。
「鶴丸国永…?」
「俺の名だ」
「鶴丸さんって言うんですね」
「いいや、主の前ではシロさんだ」
「ん?んん?」
「君が付けてくれた、君だけの名前で呼んでくれ」
「あ、はい、分かりました」
どうやらシロさんは鶴丸国永という名前らしい。先程顕現?した時そういや言っていたような気がする。鶴丸さんと呼ぼうとすれば彼はシロと呼ばれたいらしく、タブレットから視線を外して私を見つめて来た。まあ、ここ4年程シロと呼んでいたので正直混ざりそうなのでその申し出は有り難かった。
「それではゲート前に移動しましょう。ゲートを抜けた先が本丸となります」
「分かりました。行こ、シロさん」
「おう」
部屋に居た全員がソファから立ち上がり、担当を筆頭にゲートという場所まで向かった。


してやったり。鶴丸国永はニヤリと笑みを浮かべた。
主は正直言ってあまり頭は良くない。この数ヶ月程ずっと彼女の部屋のクローゼットに押し込まれて居たので、必然的に彼女の部屋で過ごす事になって分かった事である。
余談となるが、まず勉強面で言ってもそうだ、寺子屋で出された試験で100点満点中大体中間地点の少し上を彷徨う。審神者の手引書のような分厚い資料などものの数分で投げていた。まあ、集中すれば結構長続きするようであるが、それまでの腰が重い。
審神者名を決めかねていた彼女に俺が名前の案を言えば、案外すんなりと通ってその名前を使用してくれた。これから担当となる役人も特に何も言う事は無く、正直ここまですんなりいくとは思いもせず思わず笑みを浮かべる。
きっと、数十年の時が経過した時、本丸は俺の神域と化するであろう。
名前というのは存外効力がある。先程の担当が言った通りそれを縛る一種の呪いのようなものだ。彼女が俺をシロと呼び続ける限り、効力が上がる。少し無理矢理ではあるが、今現在呼ばれている「シロ」という名は「白」としても呼べる。そして、元々の俺の名は鶴丸国永だ。1000年以上という長い時、ずっとそう呼ばれてきたのだ。名前の効力を考えれば絶大なものであろう。
つまり何が言いたいかというと、″白″と″鶴″を付けた審神者の本丸は、鶴丸国永の神域に最も近くなり、時間を重ねるごとに彼女を自分の神域に連れて行きやすくなるという訳だ。そんな事も考えも気づきもしないだなんて、なんて愚かで可愛らしいのだろう。
ああ、早く彼女を俺のものに。鶴丸国永は彼女をたいそう愛おしそうに眺めた。