一応これだけでも読める
そう考えるようになったのは、いつだっただろうか。羊から抜け出す時か、はたまた捨てられた直後か、今となってはよく覚えてはいないが、ずっと心の中にあった。
もう、自分の手を悪事に染めるのは嫌だと。
自分が生きる為には仕方無かった事なのかもしれない、きっとこれは甘い考えなのだろう。それでも捨てられたあの日からずっと罪悪感があった。暴行を加えられた時に殺めた人間に対して、自分の生活の為に盗み憤怒する店主に対して、自分が今後生き残る為に利用していた中也に対して、他にも数え切れない程の悪事や後ろめたいような事を働いた。流れるままに生き、これは仕方無い事だからと自分に思い込ませて攻撃してくる人間に対して反撃の策を考える。そうしていく内に自分の発言権は強くなり、窮地に追い込まれたら大体自分が作戦を立て、それを実行する。勝利を手に掴んだ時は名前のお陰で助かったと褒め讃えられるのだが、私の作戦1つで相手の命が絶たれてしまうなんともいえない胸の痛さで素直に喜ぶ事が出来なかった。
それは日に日に積み重なり、罪悪感で押し潰されそうで上手く呼吸が出来ない、身体がなんだか重い、今考えればこの頃は心が麻痺して自分の心が分からなくなっていたのだろう。
自分がどうしたいのかも何も分からずぼんやり生きている中、1度だけ抗った事がある。羊がGSSと手を組んだ時に抜けだそうという時だ。自分自身でもあまり分かっていなかったが、異能力を持っているだろうとなんとなく理解していた私は、中也の居ない場所ではきっと遅かれ早かれ異能力者とバレてしまうだろう。良いように利用されてしまうのがオチだ。中也を最後の最後まで良いように利用していた自分が言うのも何だが、そんなのは絶対嫌だと羊を裏切り中也の方に着いた。いや、実際は中也と一緒に居ればその場から逃げ出せると思ってやったのだが。
それからも自分のやりたい事など見つからず、どうするか路頭に迷っていた時に中也からポートマフィアに勧誘された。その時は、職が見つからず焦っており、中也のゴリ押しに感化されてポートマフィアに入ったのだが、ずっと心の底がじんわり重たくなっていた。
それが顕著に現れたのは、初任務として異能力を使い、敵組織を壊滅しろという首領からの命令からだ。結論から言うとこの任務は成功し、首領からお褒めの言葉も頂いた。褒められたにも関わらず、あまり嬉しく無い気持ちになつどころかしこりとして心の奥に残った
それでも楽しいと思う事はあった。17歳になって、太宰と織田作さんから坂口安吾さんという友人を紹介して貰い、たまに3人の輪の中に入れて貰っていた。それは決まって路地裏にあるバーで、私はオレンジジュースを頼み3人は基本的に酒を頼み酌み交わすのだ。坂口さんは太宰と織田作さんのボケボケしい会話にいちいちツッコミを入れてる苦労人で、何度も頭を抱えため息を吐いていた。その会話やテンポが面白くてつい笑っていると、それを見逃さない坂口さんが「何笑ってるんですか」といかに彼らのツッコミが大変かという愚痴を聞きながら、たまに太宰や織田作さんが茶々を入れてギャーギャー騒ぎまくる夜の時間が楽しかった。ポートマフィアに入って、少し心が晴れるような時間だった。だが、それも長くは続かなかった。
1年後、坂口さんが海外敵異能組織ミミックに囚われ、織田作さんが坂口さんの奪還を命じられた。だが、現実は簡単なものではなかった。後から聞いた話だが、坂口さんはミミックとポートマフィアに潜入していた3重スパイで、本来は異能特務課の人間らしいのだ。織田作さんが坂口さんを助けた時に消息不明になったと太宰が語ってくれた。
そして、織田作さんは、ミミックの長と共に死んだ。
つい先程まで拾った孤児の為に一緒にお菓子を買いに駄菓子屋で2人隣に並んであーでもない、こーでもないと話しながらたくさんお菓子を買い込み見送った人間が、次に会ったときには目は硬く閉じて冷たくなっていた。息が出来なかった。織田作さん、織田作さん、声を掛けても返ってくる言葉は無かった。ただ、そこに横たわって安らかに眠っているだけだった。何で、どうして、何故こうなったのか、混乱してる頭では到底理解出来なかった。涙が溢れ、織田作さんの服に染みが出来る。剃り残した少し髭の生えた肌に雫が流れ落ちる。それを拭ってくれる人は居なかった。
涙が枯れてしまう程泣き、ただただ無機質に織田作さんの傍に座る。じっと見つめても、ただ眠っているようにしか見えなかった。声を掛ければ応えてくれるのではないか、そう何度も思ったが声は出ない。既に何度も彼を呼んで、返事が無かったからだ。少しの期待も無残に砕けてしまい、もう声も出す気力すら起きなかった。そんな私に後ろから近づいて来る男が1人居た。中也でも、坂口さんでも、最近少し会話が出来るようになった芥川君でも無い。その男は身体に包帯を巻いていた
「名前、まだここに居たんだね」
「…」
「ねえ、名前、私の話を聞いてくれないかい?」
「…何」
「織田作からね、君に伝えて欲しいと言われたのだよ」
「おだ、さくさんから…?」
「そう、織田作から。「自分のやりたい事をやれ」って。君、本当は殺しなんてしたくないのだろう」
15歳の頃から片目を隠していた彼、太宰が包帯を外したその両の目で私をじっと見つめられる。織田作さんは気づいていたのだろうか。いや、きっと太宰にもだ。ほぼ断言されるような口調に、中也は欺けていたのにと笑みを作った。
「私にはお見通しだよ」同じように笑みを作る彼にああ、きっと分かりづらいだけで彼も悲しんでるんだろう、彼が織田作さんを見る目に哀しさが入り交じっており、枯れたと思っていた涙が一筋頬を伝った
「ねえ、太宰。私のやりたい事って何なんだろう」
「さあ、それは自分で見つけるしか無いんじゃないかい」
「そう、だよね。」
「嗚呼、そうさ。でも、少なくとも君は此処に居るのは向いてない。転職をお勧めするよ」
「…うん」
「…私は、織田作の葬儀が執り行われた後、地下に潜る。つまりポートマフィアを抜け出すつもりだ。これは決めるのは君だが、もし着いてきたいのであれば、手引き位はしてあげるよ」
「…」
「まだ、少し時間もあるから考えてみなよ。自分のやりたい事」
「…私は、」
数日後、ポートマフィア幹部、太宰治と構成員、名字名前が組織を裏切ったと通達された。
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